花井社長「神戸マツダでは市街地での移動問題に取り組んでいる」
橋本社長「みんなのバスはもともとトヨタモビリティ基金の助成を受けてスタートした。幹線でなく支線を走るコミュニティバスだ。20年12月に実証を開始し3年が経ったが、本格運行に移行するか非常に悩んだ。私も時々バスに乗るが、おじいちゃんおばあちゃんがすごく感謝してくれているので辞めるという選択肢はないなと、本格運行に切り替えた。平日は300人前後が利用している。ドライバーは当社からバス会社に出向する形を採っており、そこで地域の声が聞ける。60歳を過ぎた社員が多いが『サラリーマン生活の最後は社会貢献をして終えたい』と言ってくれている」
花井社長「交通課題は地方の課題と思いがちだが、いろいろなところに移動の課題がある。カローラ香川で移動の課題を調査した結果『行きたいところがない』ということが分かった。移動の目的をつくることも移動をサポートするためには必要だ」
向井社長「『生涯顧客』をつくるために四国在住の自動車ユーザー1千人にアンケートした。困りごとについて、われわれの仮説は『バスが少ない』とか『タクシーが少ない』とかインフラ系かと思っていたが、1位は『行きたいところがあまりない』だった。移動は手段だが、目的地があるからこそ活性化する。地方の問題は移動の手段もつくるが、目的もつくることを同時にやっていかないといけない」
花井社長「GNホールディングスではいちごのハウス栽培を始めた。モビリティとはかけ離れているが、どういう取り組みなのか」
渡邉部長「自動車販売店から出る使用済みエンジンオイルをろ過することで安くてよく燃える再生重油になる。当グループでは使用済みエンジンオイルが44万㍑あり、農業会社からは『油田』と言われている。再生重油は省エネ法上、非化石燃料に分類される。非化石燃料を燃やしてもCO2はゼロカウントになる。つまり脱炭素農業ができ、ブランド化につながる。当社では農業法人『ミノリオ』という会社をつくった。目的は3つ。まずはリサイクルオイルを利活用した資源循環型農業のいちご栽培を行うこと。次に安価なリサイクルオイルを燃油高騰で苦労している農家に対して展開する。3つ目はこのスキームを通じて資源循環型農業、脱炭素という概念を農業界に吹き込むことだ」
花井社長「TSAではフードトラック事業を行っている」
伊藤社長「キッチンカーが今日、どこでどんなメニューを提供しているか分かる『ショップストップ』というアプリを手掛けている。このアプリの肝はキッチントラックと場所をマッチングすることだ。事業をやりたい人とやるための場所をつなぎ合わせる。プロ仕様のセントラルキッチンと会議所もつくり、メニュー開発支援も行っている。モビリティの本質は『可処分時間を生み出す』ことにあると思っている。コールセンターや工場など周囲に何もないところで要望としてあるのは『お惣菜が欲しい』ということ。秋田はクルマ社会なので仕事が終わった後にスーパーに寄ってから帰る。スーパーで総菜を買う手間なく直接、家に帰れたら、買い物する1時間の猶予をこのモビリティが生み出すことができる。そのプラットフォームとして活用してもらっている」
花井社長「向井社長は大阪・関西万博で『共創チャレンジ』についてプレゼンされる。四国の文化『モッタイナイ・オセッカイ』について教えてもらいたい」
向井社長「モッタイナイ・オセッカイの活動を紹介しながら、マネタイズについても紹介したい。われわれは地域の不用品回収を行っているが、これは廃品回収ではない。ディーラーはやりやすいと思っていて、中古車を扱っているので古物商の資格を持っている。この不用品の売却益を新しいモビリティサービスの原資にしようと。地産地消で循環社会をつくる。ディーラーだとバッテリーとかタイヤホイールとか身近に不要品がある。これを捨てるのはもったいない。ちなみに24年に集めた不用品は126㌧で、これを売却した収益は1100万円。CO2排出削減もだいぶできた。どこの地域でもできる」
花井社長「魅力的な新規事業のアイデアは誰が引き出しているのか」
向井社長「会社が何をやりたいか、言語化しないと伝播していかない。20年にビジョンをつくった時は社内外に紹介したが、その広がりでいろいろなアイデアが集まってくる。ディーラーだけの脳みそでは発想できないこともある。そこはコンサルや保険会社、ベンチャーなどが知見を持っているのでそこを活用していく」
伊藤社長「50年先のことを考えるのはトップの仕事。今、われわれは良い時代を生きている。社会的に評価されている。それは創業の人が頑張ったから。それをわれわれが食いつぶすのか、50年後に『あの人たちが頑張ったから今があるよね』となるか。未来の考え方で今を準備する、これがポイントだ」
橋本社長「トップは担当を持つとだめになる。自由に動いていろんなことを考える。社会的な課題を解決するのは企業の使命。常に社会的課題を探すことだと思う。後は現場を巻き込む、現場を腹落ちさせることが大事」
花井社長「向井社長は『リモレフ』という会社で数多くの新規事業を立ち上げている。オリジナルブランドを立ち上げる必要性とは」
向井社長「地域のモビリティ会社のハブになろうと。トヨタブランドは絶大だという話をしたが、絶大過ぎるところもある。各地方にトヨタディーラーはいっぱいあるが、一般の見え方は『さすがトヨタさんだね』となって地域となかなか紐づかない。そのため、地元密着のブランドがあった方が活動しやすい」
花井社長「みんなのバスは名前そのものがブランドとなっているし、神戸マツダのロゴもない」
橋本社長「5ハッピーを入れている。ブランドは生き様(ざま)だと思う。そこで働いていること、社員の生き様、従業員体験にもつながる。5ハッピーは神戸マツダを体現したブランドであってほしいと思っている」
伊藤社長「正規ディーラーの本業はお客さまの安全と安心を守ることに尽きる。これからもそれは変わらないが、移動の仕方が変わる。それがモビリティ社会。安全と安心を守るだけでは足りない時代になる。クルマを乗ることは目的がある。例えばキッチントラックは営業先に移動するためにそのクルマがある。その時に場所を提供する。ディーラービジネスはすごく恵まれている。保有がある、単価が高い、肝心の商品はメーカーがくれる。なおかつ各地に拠点があって、社員に給料を払っている。だからこそ代替えがきかないというか、他の事業にピボットすることができない。でも地域に根差した拠点をどう生かしていくか、サービスを提供して役に立てるかが販売店ビジネスには重要なのではないか」
花井社長「asobibaは大型投資になる。これをどう回収していくのか」
大橋社長「われわれの一番の強みはユーザーを持っていること。この情報をいかに使っていくかが課題。asobibaは2拠点を一緒にするので管理ユーザー5千人、5700台でそれをベースにやっていく。それとともに敷地の中で防災フェアをやるとか楽しいイベントをやる。人を集めた先に、例えばEV(電気自動車)の蓄電の役割をアピールするなどし、新しいお客さんをつくって事業を継続していきたい」
伊藤社長「本業がしっかりしているからこそできる。次の時代に準備する余裕がある。やろうとしているのはイノベーション。生活そのものを変えるインパクトを持つことをやろうとしているので一朝一夕ではできない。その時に本業がしっかりしていないと新規事業はできない。自前ではできないので、スタートアップや他業種の力も必要になる」
橋本社長「みんなのバスは最初、大赤字だった。でも今は人件費を除けば黒字に。面白いもので運転手として出向しているバス会社から『神戸マツダの社員は素晴らしい』と言われる。去年4月に人材派遣業の免許を取ってバス会社に〝逆派遣〟するかたちにしている。そのため、赤字幅を縮小している。今後は派遣を増やして運転手不足に貢献したい」
向井社長「単体の事業で儲かっていないが、ディーラーなので最終的に車が売れれば利益になる。どううまく全体の仕組みをつくるかということだが、大阪・関西万博を契機に65社と良いネットワークをつくることができた。シナジーも出てきているし、輪を広げていきたい。新規事業のテーマでもあるが、全国どこのディーラーでも真似できるビジネスモデルにしていきたい。僕たちだけでうまくやってもしょうがない。『クルマが売れれば良い』という世界観から脱却し、新しいディーラー像をつくりながら人材を育成していきたい」