トヨタにはサプライチェーン(供給網)全体の競争力ある基盤づくりを通じ「産業全体や地域、未来、経済好循環に少しでも貢献できないか」という思いがある。
2025年度の取り組みを先にまとめると「継続・新規・拡充」の3つになる。「継続」は材料・エネルギー・物流費の転嫁、「新規」は旧型補給部品やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の費用のお支払い、「拡充」は人への投資になる。これらをサプライチェーン全体で推進したい。
創業者である豊田喜一郎氏が1939年に制定した「購買規定」の中に、「仕入れ先さんの工場の成績を上げるようにしっかり努力するのだぞ」という文章がある。この言葉がわれわれ調達本部の活動のベースになっており、今も全く変わっていない。原価低減、材料費、エネルギー費、物流費、人への投資(労務費)、その他の仕入先さん各社の困りごと―を合算したものを「価格改定」と呼んでいる。これを一社一社とどう丁寧に話し合って決めていけるかが肝になる。
材料費に関しては、これまでも市況変動ルールを仕入先さん一社一社と決めさせていただき、変動額を自動的に100%反映しようという仕組みで運用していた。ルールのないものでも、市況が高騰しているものは個別に話し合い、価格に反映してきた。ティア2(二次部品メーカー)以降への波及に向け、ティア1(一次部品メーカー)さんに支払う形だ。ティア1には「同じような材料変動のところをよろしくお願いします」と常に申し上げている。
当社には「改善文化」がある。価格転嫁に取り組む一方で「競争力も一緒に付けていくぞ」という考え方だ。当社のメンバーが仕入れ先さんの了解を得て、現場に訪問をさせてもらいながら取り組んでいる。われわれの中では「原価のつくりこみ」と呼んでいる。品質や性能の適正化の特別な活動として「SSA(スマート・スタンダード・アクティビティー)」という取り組みも行っている。
仕入先さんの困りごとはまだまだ多い。25年度は足元から未来まで、持続的かつ競争力ある基盤づくりを推進していきたい。そのための新規活動の1つ目は旧型補給部品の取り組みだ。旧型補給部品は型の保管など仕入先さんのビジネスとしては難しい部分がある。この機会に見直そうということで、15年経過したものは価格を再設定しようというルールを仕入れ先さんに提案している。
2つ目はカーボンニュートラルへの対応だ。脱炭素や資源循環に貢献する「グリーンアイテム」の多くは、お金がかかるものが多い。日本で普及していくには、さまざまなサプライチェーンの方々が採用を促進していくことが必要だ。再生可能エネルギーの電力やグリーンアルミなど「トヨタが一定のコストを負担をすることを前提に採用を加速していただきたい」と説明会で仕入先さんに伝えた。
トヨタは、ティア1で400社、ティア2以降で6万社の仕入先さんに支えられているが、ティア2以降の会社さんとは価格に関するコミュニケーションを直接できない。だが、制約・制限がある中でも「ティア深くの皆さんに思いを届けられないか」と考えている。人と人との関係なので温かさのようなことも重視したいなど、いろいろなことを本気で思っている。一方で「自動車メーカーの足並みがそろっていない」という声もある。メーカー同士で具体的な数字の議論はできないまでも、思いや心、規範といったことは共有できる。日本自動車工業会と日本自動車部品工業会では、労務費の価格転嫁、運送契約の適正化、型取引、品質適正化、外国人材の確保、量変動への対応力強化-といった6つの重要テーマに取り組んでいる。夏ごろには事例をお聞きいただけると思う。時間はかかるかもしれないが、皆さんのお力添えも頂きながら進めていきたい。
〈プロフィル〉かとう・たかみ 1992年トヨタ自動車入社。生技管理部、生産管理部、調達企画室、調達企画部部長、サプライチェーン戦略部部長などを経て、2022年7月から現職。