全国に広がるブルー・スイッチ活動(日蓮宗総本山 身延山久遠寺とも、地元販社も含め脱炭素化及び強靱化に関する連携協定を結んでいる)

 2020年に菅義偉元首相がカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)宣言をした。これを受け、日産も21年1月、50年に車のライフサイクルでのカーボンニュートラル実現を掲げた。

 日産は昔から電気自動車(EV)の開発に取り組んでいる。1947年に「たま電気自動車」を販売した。本当の普及期に入ったのは、2010年に「日産リーフ」を販売したときになる。現在は「日産アリア」「日産サクラ」、リーフの乗用車3車種と、商用車「日産クリッパーEV」を合わせた4車種を提供している。

 バッテリーをリサイクルする事業も住友商事と始めている。10年に福島の浪江町に拠点を構え、フォーアールエナジーという会社で回収している。回収した電池は、ポータブル蓄電池や非常用蓄電池付き太陽光パネル街灯、工場のバックアップシステム用などに製品化している。

 EVは機器を介して電気を外に供給することもできる。据え置き型パワーコンディショナーを使えば、EVから家などに供給する「V2H(ビークル・トゥー・ホーム)」としてEVの電気を使える。可搬型パワーコンディショナーを使えば、EVと一緒に目的の場所を移動して電気を供給する「V2L(ビークル・トゥー・ロード)」になる。

 リーフの60㌔㍗時のバッテリーなら、スマートフォン6千台分の充電が可能。一般の戸建てなら4日分の電力を供給できる。

 EVというと「充電場所が少ない」という声があるが、実は全国で3万2千口と、ガソリンスタンド(全国2万7千カ所)よりも多い。政府は30年までに30万口へ、約10倍にしようとしており、利便性がもっと高まる。この先になると、EVから街中に電気を戻すことができるようになる(V2G、ビークル・トゥー・グリッド)。

 日産はEVを通じて社会を変革する活動「ブルー・スイッチ」を18年に始めた。目標は「人とクルマと自然の共生 美しい日本をさらに美しいブルーに」で、活動の中身として「脱炭素と強靭化(災害対策)」の2軸がある。それを実現するため「エネルギーマネジメント」「サーキュラーエコノミー」「サステナブルツーリズム」「地域交通」「次世代教育」の5つを挙げて活動している。

 脱炭素の取り組み例として、EVのカーシェア「e―シェアモビ」がある。沖縄県名護市では、公用車として導入したEVを土日は観光客に貸し出し、月曜から日曜までフルに使ってもらっている。エネルギーマネジメントの取り組みとしては、電気代削減、環境価値の向上、BCP(事業継続計画)、地域貢献という価値を生み出す「日産エナジーシェア」を始めた。

 強靭化(災害対策)に関しては、2019年の台風15号で大きな影響を受けた千葉にリーフ53台を持っていき、公民館、保育施設、高齢者福祉施設に電力を供給した。能登半島地震でもEVを派遣させてもらった。

 地域交通への貢献では、乗り合いタクシーのEV化がある。全国各地で公共交通機関のバスの維持が難しくなり、乗り合いタクシーに替える事例が増えている。どうせならEVにということで、奈良県の三郷町にリーフを買っていただいた。特徴は町役場にV2Hの機器を設置していることで、災害・停電時はタクシーが町役場に駆けつけ、災害対策本部の電源になる。

 観光にもEVを使ってもらう取り組みを、阿蘇市、佐世保市、千葉県、相模原市、滋賀県などが行っている。昨年からは「グリーンジャーニー」という取り組みも始めた。これから全国に広げたい。

 次世代教育「日産わくわくエコスクール」では「地球温暖化の解決策の一つとしてEVも使えるのではないか」という講義を行っている。

 このようにブルー・スイッチ活動は全国に広がる。地域との共生ということで、47都道府県で必ずどこかで協定あるいは活動している。

 〈プロフィル〉たかはし・ゆういちろう 1999年日産自動車に入社。商品企画、マーケティングに携わり、2019年から「ブルー・スイッチ」活動の責任者。