第3世代eパワー用エンジンはより発電に振り切った仕様に
駆動ユニットはジヤトコとの共同開発。小型化し、騒音も減らした
欧州では「キャシュカイ」(写真は現行型)に搭載され、今年度中に発売予定だ
エクストレイルHV(2015年)用のハイブリッド機構

 日産自動車は、ハイブリッド技術「eパワー」を第3世代に切り替える。欧州で搭載車を今年度中に発売し、国内では来年度、新型車「エルグランド」に搭載する予定だ。課題だった高速走行時の燃費や騒音を改善させ、主力の北米市場にも搭載車を投入する。燃料高を背景に世界でハイブリッド車(HV)人気が高まる中、経営再建に弾みをつけられるか。試乗と技術担当役員への取材から展望する。

 ハイブリッドは、主に①エンジンで発電し、モーターで走る「シリーズ式(レンジエクステンダー=航続距離延長装置を含む)」②エンジンとモーターで走るものの、モーターは小型で発進時などの補助に徹する「パラレル式」③エンジンと大型モーターを使い分けて走る「シリーズ・パラレル式(スプリット式)」に分けられる。シリーズは「直列」、パラレルは「並列」の意味で、動力源からタイヤへの伝わり方を指す。シリーズ式ではエンジンの力は電力に一本化されてタイヤへ伝わるので「直列」というわけだ。

 トヨタ自動車「プリウス」は③、ホンダ「アコード」は①をベースに巡行時はエンジンのみで走行するモードを持つHVだ。どちらも制御が複雑でコストも高いが、燃費改善効果は高い。

 eパワーは①のシリーズ式だ。2010年に発売した電気自動車(EV)「リーフ」の開発過程で生まれた技術で、充電設備がないユーザーにもEVの良さを味わってもらおうと商品化したという。パワートレイン開発責任者の生浪島俊一執行職は「われわれはeパワーをハイブリッドと呼んでいない」と話す。

 生浪島執行職が言うように、eパワーの特徴はEVのような滑らかな加速感と静粛性だ。もっとも電池容量がEVより小さいため、高速道路などを走ると発電用エンジンが頻繁に作動し、燃費が悪化する傾向があった。第3世代ではエンジンを含むシステムを改善し、高速燃費は現行(第2世代)eパワー比で15%改善し、コストも第1世代から2割下げた。エンジンの静粛性も大幅に高めた。試乗でも、時速50㌔㍍前後からの中間加速時のエンジン騒音が第2世代と比べて明らかに小さくなったことが分かる。荒れた路面など、エンジン音が気にならない時に集中発電する工夫もある。

 第3世代の発電用エンジンは欧州向けの第2世代と同じ、排気量1.5㍑の過給器付き。シリンダー内に強いタンブル流(縦方向の渦)を作り出しながら点火のタイミングで整流する独自の「STARC燃焼」に加え、EGR(排ガス再循環)の大量使用などで熱効率を高めた。ただし、これだけだと出力低下という〝副作用〟が出るため、発電用に振り切った技術を投入した。

 目玉は大型ターボの採用だ。タービン径は現行型の40㍉㍍から47㍉㍍、コンプレッサーも51㍉㍍へと拡大。残留ガスや排気時のエネルギー損失を減らし、燃費と出力ともに向上させた。一般にタービンを大型化するとエンジンの応答性が下がり、運転しにくくなる。しかし、そこはシリーズ式HVのため、割り切った設計ができた。生浪島執行職は「従来のエンジン車には使えないようなターボだ。エンジンはクルマの走りに関係しないことを逆手に取り、効率のためにできることをたくさんやった」と話す。

 駆動ユニットもジヤトコと共同で刷新した。モーターとインバーター、減速機、さらに発電機と増速機を一体化させた「5in1」構造で、変速機とモーターの「軸ズレ」を防ぎ、静粛性を高めた。

 ただ、自動車の使い方は世界各国でさまざまだ。例えば、北米ではキャンピングカーやボートをけん引して走るのが一般的だが、今のeパワー技術では力不足という。引き続き、さまざまな技術を検討しながら改良する意向だ。藤本直也執行職は「まだまだエンジンは領域を絞り、効率を上げられる。モーターや電池の使い方にも伸びしろがある」と期待をかける。

 日産も、過去には1モーター2クラッチのパラレル式ハイブリッド機構を持ち、FR(後輪駆動)の「フーガ」、FF(前輪駆動)ベースの「エクストレイル」などに搭載していた。しかし、同業他社より開発で先行していたリチウムイオン電池の性能を生かそうとEVシフトを急ぎ、HV開発が停滞した経緯がある。このため、地道にハイブリッド機構の改良を続けたトヨタやホンダとの性能差が開いてしまった。

 しかし、電動化や知能化の原資を稼ぐためにもHVラインアップの拡充は不可欠だ。赤石永一執行役CTO(最高技術責任者)は「(開発過程で)重点を置くところをできるだけ早く決め、スピードを上げ、本当に必要なところにコストを投入する。これにより高コスト体質を改善する方向にいければ良い」と話す。eパワー搭載車も満を持して26年度には北米市場に投入する計画だ。

 もっとも、競合もハイブリッド技術を進化させている。トヨタは、高価なSiC(炭化ケイ素)パワー半導体を一部HVに用い、燃費を一段と高める計画。ホンダは北米のけん引需要を意識した大型車向けハイブリッド機構を開発中だ。フォード・モーターも30年までに全モデルにHVを設定するなど、30年頃まで続くとみられるHV需要を1台でも多く取り込もうと開発競争が激化しつつある。

 完成車工場の閉鎖や人員削減、資産売却などを進める日産。自動車メーカーにとって、ヒット車は業績貢献にとどまらず、社内の士気を高める効果もある。反転攻勢の第一歩として、電動車シフトの現実解であるeパワー技術が担う役割は大きい。

(中村 俊甫)