車載向けのシェアはわずか10%

 車載半導体の不足が長引いているのには理由がある。半導体製造工場は設備投資の負担が大きく、生産能力を増強するのはリスクが大きい。また、自動車生産と比べて半導体は生産リードタイムが比較にならないほど長い。前工程だけで12~16週間かかるのが一般的で、高性能なものでは24週間かかるものもある。半導体は発注してすぐに納入されるものではなく、民生向けから車載向けに切り替えるだけで長い時間を要する。

 さらに、車載半導体の不足が目立つ理由として、ファウンドリーにとって自動車向け半導体の魅力が少ないこともある。コロナ禍による車載半導体の受注減少でファウンドリーは生産品目を変更したが、これをまた車載用に戻すにはコストがかかる。しかも車載半導体はスマートフォン(スマホ)などに搭載されている最新の半導体と比べて1、2世代前のもので、利益率が低い。世界トップクラスの微細加工技術を持つTSMCなどにとって収益性が良く、競争力を発揮できるスマホ向けなどを重視するのは当然だ。そもそも半導体全体に占める車載の比率は1割にも満たないのが現状だ。

 半導体業界にとって自動車向けの重要度は高くないことに反比例するように、自動車にとっての半導体の重要度は増している。従来は制御系に多くのマイコンが使われてきたが、今後、普及が見込まれる電動車両には電力を調整するパワー半導体が、自動運転などではセンサー類が必要不可欠だ。自動車1台当たり半導体搭載数は50個以上、上級モデルでは100個以上搭載されていると言われるが、自動運転車や電気自動車では搭載数が大幅に増え、高性能なICチップが必要不可欠となる。そして半導体が1個でも不足すると自動車の生産ラインは停止する。言わばティア2(2次サプライヤー)やティア3(3次サプライヤー)である半導体のファウンドリーに、自動車メーカーは生殺与奪権を握られている格好だ。

 垂直統合の代表的な産業で、ピラミッド構造の頂点に君臨し、部品メーカーに品質改善や安定した部品供給、原価低減を要求してきた自動車メーカーは、かつて経験したことのない状況に置かれている。実際、半導体不足の足元を見るかのように、一部半導体メーカーは半導体価格で強気の値上げを打ち出している。すでに巨大産業の筆頭にいる自動車メーカーだからといって、要望が優先される状況にはない。

 液晶テレビ、スマホ、パソコンなどのデジタル産業では、一足先に水平分業が進んだ。サプライヤーを含めて各企業が得意分野に集中することで投資や開発の効率アップが図れるためだ。今回の車載半導体不足の問題は、電子化が加速する自動車で、垂直統合方式を続けることに限界があることを示しているようにも読み取れる。

 ファブレスで有名なアップルは、電気自動車(EV)参入が噂されている。EVの企画だけをアップルが担当し、生産は台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業や、現代自動車などの既存自動車メーカーに委託する水平分業を自動車ビジネスに持ち込むことが予想されている。

 アップルがEVで成功してから自動車メーカーが水平分業に移行しても遅い。自動車メーカーは今回の半導体不足の問題に真摯に向き合い、デジタル化する自動車産業で、取引先との関係を見直し、構造改革を推進しなければ生き残れなくなる可能性がある。

(編集委員 野元政宏)