車体整備の現場では対応すべき取り組みが増えている

 事故を起こした車両の修理に求められる技術レベルが高くなっている。車に搭載される機能が進化し、ボディーの構造や使われる素材なども昔とは大きく異なってきた。このため、車体整備の関連団体などは講習会を通じて車体整備事業者の知識や技術の習得を後押しする。先進的な事業者は、設備投資などにも熱心だ。今後も高機能化が進むのは間違いなく、車の安全を確保するために必要な取り組みの範囲が広がっていきそうだ。

 最近の事故車修理に対してBSサミット事業協同組合の磯部君男理事長は、「従来の車体整備工場では新しい車の修理が難しくなっている」と指摘する。外板パネルにはアルミニウムが使われたり、先進運転支援システム(ADAS)を搭載した車が増えている。これらの車を修理する際は、エーミング(機能調整)やホイールアライメントテスターを使用して機能の回復を確認し、それをエビデンスとして残すことが求められる。

 茨城県自動車車体整備協同組合(茨城車協)の根本裕一理事長も、修理の難しさを口にする。根本理事長は「ドアとフェンダーなど、パネル同士の〝ちり〟が合わせづらくなった」という。このため、自社の修理では交換する新品のパネルを仮に組み合わせてから塗装に入るという。イチムラボディーショップ(山梨県南アルプス市)の市村智社長も、事故による力の入り方が「今までの感覚と変わってきている」と話す。

 また、岐阜県自動車車体整備協同組合(岐阜車協、平野将告理事長)の大原孝司副理事長は、「自社では10台のうち3、4台が先進安全自動車(ASV)の入庫」とし、「技術がないと車に触ることすら許されない時代になった」という。

 最近の車の修理には、それに対応した知識や技術が不可欠だ。しかし、日本自動車車体補修協会(JARWA)の吉野一代表理事は、「最近の車を直すために必要なことを学ぶ体制や機会などが十分だろうか」と疑問を投げかける。特に、特定の団体に所属していない車体整備事業者は「どこでそれらを担保するのだろうか」と指摘する。

 岐阜車協は独自で行う講習会で、今後の事故車修理に必要な要素を先取りしてきた。例えば、エーミングは特定整備制度の施行前から対策に乗り出していた。スキャンツール(外部故障診断機)とターゲットを2組用意し、組合員が持ち回りで実車を用いてエーミングを体験してもらった。特定整備制度の猶予期間を生かしてほとんどの組合員がエーミングを実際に行い、90%以上の組合員が電子制御装置整備の認証を取得した。

 茨城車協は、厚生労働省の補助金を活用して「これから必要になる」と判断した整備機器などを2022年に購入。それらを活用した講習会で、組合員に最新の整備機器の使い方を学べる機会を提供した。加えて、購入した整備機器を必要とする組合員に貸し出すことで、機器に触れる機会を増やしている。

 整備機器は車体整備事業者が生き残る重要な鍵となる。茨城車協の根本理事長は、「今後の車体整備事業者はコンプライアンス(法令順守)が求められる」とした上で、「コンプライアンスに沿った修理を行うには、設備の充実が必要だ」と指摘する。BSサミットの磯部理事長も「自動車メーカーの修理書通りに直すことが非常に大事」とし、そのためには「ホイールアライメントテスターやフレーム修正機などの設備が必須だ」とする。

 イチムラボディーショップの市村社長は「顧客の安全をしっかり守るという観点がないと、何も始まらない」と言い切る。そして、「安全を守るためには知識や技術とともに、適切な費用をいただくことも必要だ」と訴えている。

月刊「整備戦略」3月号では特集「今の事故車修理に必要なこと」を掲載します。