新たなモビリティの一つとして注目を集める無人航空機「ドローン」。機体を飛ばして工場や建造物、屋根などの点検を人間に代わって行うなど、使い方は広がっている。将来の普及を見据え、ドローンスクールの運営や機体の販売などに取り組み始めている自動車関連の企業も出てきた。
三重トヨタ(竹林憲明社長、三重県津市)は、グループ会社のモビリティナビ(同)でドローンスクールの運営や産業用ドローンの販売などを行っている。自動車ディーラーとして80年以上の歴史がある三重トヨタがドローン事業に参入した理由について、竹林社長は「これから広がっていく市場で、社員が夢を持てるビジネスをやりたい」と話す。
また、今のドローンを取り巻く環境が、「車の黎明(れいめい)期と同じ」と考えたからだ。かつて、国産車が普及し始めた時期に、同社は自動車学校に出資していたという。車を売るためには、運転免許を取得する人を増やすことが必要という発想からだった。操縦士を育てることで、ドローンの普及や将来の販売客につなげるほか、将来に向けた先行投資にも位置付ける。
ドローン販売では、国産メーカー2社の正規代理店になっている。取り扱う機体は産業用のため、実機とスクールをセットにした営業活動を行っている。購入者は仕事で使うため、車と同様に「売りっぱなしではいけない」(竹林社長)と、メンテナンスの必要性にも目を向ける。現状はユーザーの機体をメーカーに送って整備しているが、販売台数が増えれば内製化できる可能性も出てくるため、「仕事のチャンスは生まれる」(同)と期待をかける。
あいおいニッセイ同和自動車研究所(石井禎社長、静岡県裾野市)では、2022年4月に「モビリティ&地方創生部」を立ち上げ、ドローン事業に乗り出した。ドローンに着目したのは空撮や測量、災害調査での活用が期待されるため。例えば、自然災害や台風で被害を受けた建物の修理は、見積もりを業者に依頼するだけで時間かかる。ドローンを活用し、「損保会社やその代理店が対応すれば、すぐに対応できる」(石井社長)との考えからだ。平時でも道路や橋梁などの調査や点検で生かせるとみている。
この目的の達成に近づけるには、さらなる操縦士の育成が必要だと考え、「ADドローンスクール」も運営する。他のスクールとの協業も模索している。また、あいおいニッセイ同和損害保険のモーター代理店などのイベントにも出張し、ドローンの体験プログラムを提供するなど、ドローンの必要性を発信する取り組みも行っている。
日本UAS産業振興協議会(JUIDA、鈴木真二理事長)は14年7月の発足以来、国内でのドローンの普及に向けたルールづくりやスクール認定制度の立ち上げなどに取り組んできた。岩田拡也常務理事は「自動車業界がさまざまな課題を背負ってきたからこそ、それを学んで生かせている」と語る。
最も参考になったのは、イギリスで車の前を赤い旗を持った人に先導させる「赤旗法」だという。歩行者保護の観点が強いが、車両通行の利便性を損ない、自動車の普及に影響が出て同法の廃止に至った。ドローンでもこの考え方に基づいた法律が定められそうになったことがあるといい、自動車の歴史が役立った一例だ。
また、機体そのものも専門性が高くなっており、足元で加速している車の高度化と重なる部分もある。岩田常務理事は「自動車が歩んできた歴史を、ドローンが10倍くらいのスピード感で追い掛けている」と話す。
月刊「整備戦略」25年1月号では特集「〝空飛ぶクルマ〟の可能性」を掲載します。