大型車を取り扱う整備事業者は、点検や車検、故障修理などの日常業務を通じて物流をはじめとした社会インフラを支えている。一方、人材不足など重い課題を抱えているのも事実だ。大型車の整備事業者で構成する団体や整備事業者に、こうした現況に加え、これからの大型車整備で求められることは何かを聞いた。
ロータストラックネットの福島勇人代表は、今後の課題を「大きく分けて人、技術、収益の3つ」とする。このうち、人の問題については「人材の確保と定着」とし、「真の勝ち組となるためには採用と定着、教育がすべて」だとしている。社員が定着する条件について福島代表は、入社後の社員教育プログラムの有無を挙げる。整備士のスキルアップに対する明確な教育メニューを準備する必要があると指摘する。
このため、ロータストラックネットでは技術向上に向け、電動化やコネクテッド化への対応に力を入れている。また、物流でトレーラー利用が進んでいることから、それに対応することで収益拡大につなげる考え。技術委員会でトレーラーの整備の勉強を始めているという。
教育を重視しているのは、ボルボ・トラックのディーラーも手掛けるヨシノ自動車(中西俊介社長、川崎市川崎区)。整備の社内マニュアルがなかったため、教育プログラムの策定に着手した。「外国人や若い日本人の自動車整備士が先輩の作業を見て覚える方法に対して非効率と感じている」(中西社長)ことも要因だ。作業における細かいニュアンスなど、あいまいになりがちな部分を明確にすることで、整備品質のアップも狙う。
人材確保について、関東トラックモニタリング協同組合の國分秀太理事長は、「効率化の徹底と省力化で労働環境を改善することが求められる」とみている。整備機器やスキャンツール(外部故障診断機)だけではなく、車両や業務を管理するシステムを導入し、有効活用することが必須だとする。同組合では組合員を対象とした経営セミナーで、自社の利益などの数字を出し合って議論するなど、生産性を高める取り組みを進めている。
全国大型自動車整備工場経営協議会(全大協、本島誠之会長)の柳沼文秀副会長は、これからの大型車整備に求められることとして「整備の内容を明確にすること」を挙げる。例えばオイル交換では注入量を厳格に示すとともに、顧客に説明し納得してもらう。これにより、仕事に見合った対価を得られるようにしたい考えだ。ただ、「大型車整備の顧客は法人が主体のため、価格転嫁がしづらい面がある」(柳沼副会長)とも指摘する。過去の取引実績があるため、価格改定やタイミングの難しさがある。加えて、部品代や材料費の高騰分を転嫁できても、「整備料金については転嫁できている事業者の方が少ないのではないか」(同)とみている。
エフテック(千葉市若葉区)の森孝司社長は整備業界に限らず、投資に対する「資金調達をどのように戦略的かつ粘り強く取り組むか」が課題と指摘する。同社では国の助成制度や中小企業を支援する施策などについて普段から情報収集しており、関連する法律などが施行された場合は迅速に対応できるよう準備をしているという。同業他社に先駆けたスピード感で助成金制度を利用することで、強固な経営基盤づくりにつなげている。実は10月に本格運用が始まるOBD(車載式故障診断装置)検査に対しても、実施方針が明らかになった10年前から、当時の本社工場の移転を検討。そのために必要な資金調達や、利用できる制度を考え抜いていたという。
月刊「整備戦略」10月号では特集「大型車整備の今とこれから」を掲載します。