人材不足や次世代自動車への対応など自動車整備業界が抱える課題は、自動車リサイクル業界にも当てはまる。そこで、リサイクル業界の各社や団体では自らの取り組みなどを幅広く発信するなどし、ブランド力の向上に力を入れている。併せて、従業員の待遇改善を進め、求職者へのアピールにも余念がない。こうした自らをブランディングする活動は、これからのリサイクル業界にとって避けては通れなくなっている。
日本トラックリファインパーツ協会(JTP、新井栄代表理事)は2021年の創立20周年を機に、組織の内側を固めるインナーブランディングに乗り出した。JTPとトラックのリサイクル部品「リファインパーツ」のイメージアップが狙い。専門チームによるワークショップを10回以上行い、今後のリファインパーツの提供に必要な課題について参加者が意見をぶつけ合った。まとめたものは今秋の総会で発表する方針で、その後はグループ外に向けた発信も視野に入れる。
会宝産業(石川県金沢市)の近藤高行社長は今後、リサイクル事業者が取り組むべきものの一つに「発信」を挙げる。同社ではさまざまな取り組みをメールやSNS(会員制交流サイト)などで発信してきた。23、24年と2年連続で、映画も制作。同社のブランド価値の向上が目的で、近藤社長は「自ら発信しなければ届かない」と力を込める。こうした取り組みだけではなく、使用済み自動車の仕入れなど普段の業務の中でも、「自動車リサイクルの社会的意義などを一緒に伝え、その必要性について理解してもらうことが必要だ」と指摘する。
JTPの新井代表理事も外部への「発信は大事なこと」と、同じ考えを持つ。JTPでは架装物の適正処理に向けて、架装メーカーや商用車を使用している事業者などに、適切な処理方法の提案や要望を発信するなどの取り組みを続けている。
人材の確保に欠かせない待遇の改善も、一層求められる可能性も高い。吉田商会(吉田恭平社長、愛知県豊橋市)は23年、社員の基本給を引き上げたほか、有給休暇を1時間単位で取得を可能にした。働きやすい職場づくりに貢献したものの、異業種も人手不足となっており、採用状況はなかなか好転しなかった。このため、さらに改革を進め、25年からは年間休日を現在の105日から115日に増やすという。
同社は長年、従業員満足(ES)の向上や働きやすい職場環境の構築に取り組んでおり、豊橋市などから認定もされている。しかし、それでも新たな人材の獲得が難しいほど、採用戦線は厳しくなっている。吉田社長は転職のイベントで来場者から「仕事は楽しそうだけど、休みが少ないと言われた」と明かす。このため、目に見える部分でさらなる待遇の改善を図り、応募者の関心を高める考えだ。
一方、リサイクル部品の生産現場でも、技術革新への対応が迫られている。例えば、機能部品の品質をスキャンツール(外部故障診断機)で確認し、品質を担保することが求められている。これを行わなければ、価格や売れ行きを左右する可能性もある。このため、スキャンツールの普及に向けてリサイクル関連団体が、事業者の支援を進めている。
NGP日本自動車リサイクル事業協同組合(NGP、小林信夫理事長)は4月、約130の全組合員にスキャンツールを無償配布した。JARAグループ(川島準一郎理事長)もスキャンツールの接続用ツールを会員企業に配布。グループ会社のJARA(矢島健一郎社長、東京都千代田区)が、TCJ(堀口哲矢代表、東京都渋谷区)のスキャンツール「TCMa」のライセンス料の一部を支援し、同グループの会員企業の経済的な負担を軽減している。
NGPではリサイクル部品の品質を確保することが組合員やグループのブランドの価値を高めることにつながるとしており、スキャンツールは不可欠だとする。JARAグループの川島理事長も「商品への安心感を高め、会員各社の売り上げアップにつなげたい」としている。
◆月刊「整備戦略」2024年7月号で特集「自動車リサイクル これからの課題に挑む」を掲載します。