快適な作業環境で仕事をしたいという要望にどう応えるか

 これから多くの自動車整備士は、暑さと戦わなければならない時期を迎える。ディーラーをはじめ、自動車整備に携わる各事業者はここ数年の猛暑に加え、従業員満足(ES)の一環として暑さ対策を進めている。快適な環境で仕事をしたいという整備士の要望にどう応えていかなければ、人手不足に拍車がかかる懸念もある。整備業界では、より一層の取り組みが求められそうだ。

 消防庁がまとめた「熱中症による救急搬送状況」によると、2023年6~9月の4カ月間に熱中症で緊急搬送されたのは8万7812人。また、厚生労働省がまとめた「人口動態統計月報」によると、同期に熱中症による全国の死亡者数は1555人(速報値)に上り、過去5年のうち4年は1千人を超えている。これらは自動車整備に限ったものではないものの、厳しい作業環境に置かれることもある整備士を守るためには、適切な熱中症対策を講じなければならない時代になっている。

 工場用品などを手掛けるサンコー(東京都港区)の永瀬道晴社長は最近の夏が「暑すぎる」とし、主力商品の業務用冷風機だけでは追いつかない窮状を訴える。パナソニックカーエレクトロニクス(荒屋和浩社長、東京都品川区)のソリューション事業統括部の上田勝彦統括部長も「環境改善をやらなければ、人材確保がさらに難しくなる」と指摘する。同社はカーナビゲーションシステムや補修用バッテリーで取引があるディーラーなどから「工場の暑さ、寒さを何とかしたい」という声が増えているため、5年ほど前からエアコンの提案を行っているという。

 いすゞ自動車首都圏(中村治社長、東京都江東区)は、山梨支社甲府支店(山梨県昭和町)の甲府サービスセンターにエアコンを導入。3月下旬ごろから使用を開始した。これまでは工業用扇風機やスポットクーラーを使っていたが、どうしても行き届かないところが出てくる。そのため、エアコンを作業ピットとピットの間に設置し、整備士に風が当たりやすくした。佐野桂センター長は「施設全体を冷やしたかった」と、エアコン導入の狙いを話す。現在の気候では送風モードでも涼しさを体感できるという。水分補給などの対策と組み合わせ、作業環境の大幅な改善に期待を寄せている。

 ただ、強力に冷やせるエアコンは導入費用も高い。また、設備という〝モノ〟を取り入れるという考え方よりも、作業環境という〝コト〟を考慮して計画を立てる必要がある。このため、設備事業者との話し合いが半年から1年程度かかるものも少なくない。コストや即効性の面で、ハードルがあるのも事実だ。

 中小・小規模が多い整備事業者では投資の余力にも限りがある中、あの手この手で対策を進めている。カーライフハギワラ(萩原良夫社長、東京都八王子市)は、次世代への事業承継の一環として整備工場などの作業環境の改善に着手。デモ機を使った整備士から好評だったため、業務用冷風機などの導入を決めた。これまでは、体調によってエアコンがある休憩室で適宜休憩をとることなどを認めてきた。萩原社長は「少しでも涼しい作業環境をつくっていかないといけない」という思いがあったと打ち明ける。

 サンコーの永瀬社長は、「これからは個社の事情にあった冷やし方になる」とみている。例えばエアコンの風が届かない場所には、スポットクーラーや首元を冷やす道具を使うなどといった具合だ。整備工場のレイアウトや導入している整備機器、地域などで事情も変わってくる。永瀬社長は「状況に応じて必要なものを選択する時代になった」としている。

 ◆月刊「整備戦略」2024年6月号で特集「車検も整備も涼しくしたい!」を掲載します。