モータースポーツのマシンで「サービスエンジニアになろう」と呼び掛ける(埼玉トヨペット)

 「若者のクルマ離れ」などと指摘されて久しく、車そのものへの関心が一昔前に比べて希薄になったと言われる。しかし、企業や団体、整備学校などはそれぞれの立場から、若い人に興味を持たせるための取り組みに力を入れている。かつてはモータースポーツをきっかけに車を好きになるケースも多かった。こうしたアプローチを続けるとともに、現在はオンラインで運転技術を競うeモータースポーツを軸にした活動も進んでいる。まずはどんな形でも車に興味を持ってもらうことで、ファンの拡大につなげるほか、将来的に自動車関連の職業を選ぶ人を増やす狙いもある。

 埼玉トヨペット(平沼一幸会長兼社長、さいたま市中央区)は2013年に、モータースポーツチーム「埼玉グリーンブレイブ」を立ち上げた。現在は本格的な競技である「スーパーGT」「スーパー耐久レース」に参戦している。昨シーズンはいずれもクラス優勝を果たした。モータースポーツ室の丸山恵介さんは「強いチーム、楽しさを伝えられるチームを常に目指して活動するのが私たちの意義」と話す。

 同チームの活動方針の一つが、「パドックで一番ファンサービスをするチームを目指す」ことだ。サーキットに訪れるファンは同社の店舗を訪れる顧客と同じという考えからで、レース当日はドライバーやレースクイーン、同室が時間の許す限り総出で対応することを心掛ける。

 三重トヨペット(井上喜晴社長、三重県津市)は、eモータースポーツチーム「BTF SPIRIT」を20年に発足した。大会などでの活動のほか、県内の小学校や高校の依頼で「eモータースポーツ体験学習会」を各地で開催している。体験学習会を通じて「ゲーム=悪」といったネガティブなイメージの払拭(ふっしょく)に取り組むともに、車好きを増やすことを目指す。チーム代表の川喜田雅則専務は、「すでにリアルなモータースポーツをやっている子どもと、ちょっと興味がある子どもとの差が開きすぎている」と指摘。eモータースポーツで、その差を埋めていく考えだ。

 ディーラー各社が、こうした活動に取り組むのは会社やチームの認知拡大を実現することで、顧客との接点を増やす狙いがある。また、採用への波及も見込んでいる。実際、三重トヨペットでは、社員として入社したケースもある。

 「東京オートサロン2024」の会場でも、eモータースポーツに注目が集まった。20年にスタートしたチーム「DGMS」を応援している自動車整備養成校8校などによる「テクニカルカレッジGP/e―DGMS GP」が開かれ、各校の代表選手がドライビングシミュレーター「グランツーリスモ7」で対戦した。

 国内のモータースポーツを統括する日本自動車連盟(JAF、坂口正芳会長)でも、「トップを光らせ、裾野を広げる」という考えの基に、さまざまな取り組みを行っている。その一つが、15年に始めた「オートテスト」だ。年齢やJAFのモータスポーツライセンスに関係なく、スラローム走行などを気軽に楽しめるもの。好成績を上げれば表彰台に上れるという、非日常的な体験もできる。23年は全国で85回行われており、JAFではモータースポーツの入り口としての役割に期待を寄せている。

 モータースポーツとは異なる方法で、車好きを増やす試みも行われている。中日本自動車短期大学(山田弘幸学長、岐阜県坂祝町)では、高校生を対象にした投票企画「NACカー・オブ・ザ・イヤー」を実施している。投票への参加で高校生のクルマへの興味を高める狙いだ。上位に入ったモデルはオープンキャンパスで同校を訪れた高校生を対象に、同乗体験できる機会も提供する。車の魅力を伝えるためには、「まずは車のことを知り、車に触れてもらうことから」(広報室)との思いが背景にある。

 国産車や輸入車のディーラーも手掛けているダイワグループ(湯本拓治CEO、東京都調布市)でも、顧客が車に触れられる機会を増やすことを重視している。マーケティング部の小川秀一ディレクターは「興味を持ってもらえる場を提供することがわれわれの仕事」とし、今後も車と顧客の接点拡大に取り組む考えだ。

◆月刊「整備戦略」2024年5月号で特集「車を若者の興味の対象にする」を掲載します。