「OBD検査で不適合になったら…」と考える整備事業者は少なくない

 OBD(車載式故障診断装置)検査の本格運用が始まるまで、2カ月余り。国土交通省では2023年10月から「プレ運用」を実施しており、円滑な移行を目指している。車載データに基づいて判断することで適切な整備を実現する一方、慣れない作業で現場の負担が増す懸念もある。実際に現場でOBD検査への対応を進めている整備事業者が今、何を感じているのかを聞いた。

 ツカサ工業(長野県大町市)の佐藤憲司社長、福井自動車(東京都千代田区)の土田千恵社長、センチュリーオート(千葉県松戸市)の石井英幸社長に聞いた。3人が懸念する点としてまず挙げたのが、OBD検査への関心や周りの整備事業者とのギャップの大きさだ。土田社長は6月に行われた整備振興会の勉強会で、10人ほどの参加者のうち「プレ運用を行ったのはたった1人だった」と明かす。石井社長も整備振興会の会合で、「当社と周囲の同業者との取り組みの差に驚いた」と話す。

 指定整備事業者における「事業場ID」の取得率は91%、OBD検査システムへの初回ログイン率も85%(いずれも6月28日時点)まで上昇した。数字上、準備は整いつつあるとも言えるが、プレ運用まで行うところは限られるのが実態のよう。いきなり本番では無用なトラブルを起こしかねない。佐藤社長はOBD検査の対象車が「入ってくる、こないに関わらず、スムーズにできる態勢を整えてほしい」と訴える。

 本格運用によって懸念されることの一つが、自動車検査員の〝うっかりミス〟だという。例えば、エンジンを始動させずにOBD検査を行うと、検査の一部未実施で行政処分の対象となる。しかし、この場合、計器上ではエンジン未始動の警告もなく、「適合」と表示されるため、土田社長は「誰もミスに気が付かないし、チェックできない」と指摘する。

 また、OBD検査(確認)で使用する自動車検査員のIDやパスワードは、本人以外の使用が禁止されている。ただ、使用するパソコンやタブレット端末が直前に使用した検査員のIDなどを記憶しているため、別の検査員が使う時に自分のID入力を忘れると、意図せずに「簡単に成り済ましができてしまう」と、土田社長は指摘する。その上で、「検査員だけに任せるのではなく、ミスを防止するための仕組みを社内でつくる必要がある」と提案する。

 OBD検査の対象台数は、約230万5千台(4月末時点)。そのため、本格運用後もしばらくはOBD検査を行う機会は限られそうだ。

 しかし、すでに事故を起こした検査対象車が板金塗装(BP)で入庫している。これらはフロントバンパーなどの脱着や、先進運転支援システム(ADAS)のデバイスを交換してエーミング(機能調整)を行うケースもある。ただ、納車後の車検で「特定DTC(故障コード)」が発生した場合、その原因を突き止める過程で、過去の修理履歴などをさかのぼることになる。石井社長は「少なくとも納車する時に、(入庫した車に)問題がなかったという証明が絶対に必要になる」とみている。

 OBD検査の本格運用後に特定DTCが検出された場合、大事になるのが取引先のディーラーとの関係だ。整備事業者には困ったらディーラーに頼むという考えが根強いが、石井社長は「どこでどう直すかという連携を構築することが、事前の準備で最も大切だ」と指摘する。ディーラーも整備士が不足しており、業務も立て込んでいる。外注を依頼しても、迅速に対応できるとは限らない。佐藤社長は「ディーラーは最後の砦(とりで)ではない」とし、自社の体制整備の重要性を訴える。

 あらゆることを想定して準備を進めてきた佐藤社長も、10月1日の本格運用の初日に「きちんと行えるかどうかという不安が尽きない」という。仮に特定DTCコードが検出された時に、適切な対応ができるかについても「実際にそうならないと分からない」と慎重な姿勢をみせる。

 石井社長は「これからは安心を担保することを前面に打ち出していくしかない」と話す。センチュリーオートは本格運用に合わせ、車検料金を引き上げる方針だが、それに見合うだけの検査などを行って顧客の理解を求める考え。土田社長も本格運用を「車検料金の値上げのチャンス」とし、売り上げが増えた分を整備士の待遇改善に反映させるとしている。

 月刊「整備戦略」8月号では特集「OBD検査 まもなくスタート」を掲載します。