先細り確実な燃料税収の穴埋めをめぐる議論が焦点
「利用に応じた負担の適正化に向けた課税の枠組み」とは?

 自動車税制の改正議論が再び熱を帯びてきた。背景にあるのは電動車シフトによる燃料税収の先細り懸念だ。手っ取り早く燃料税収の目減り分を自動車への課税で補おうとする財政当局に対し、経済産業省や自動車業界は、MaaS(サービスとしてのモビリティ)の潮流や「社会的な受益者の広がり」を根拠に、自動車保有者以外にも薄く広く課税するよう主張する。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)や財源の安定、自動車産業の発展などに目配りした新たな税体系はどうあるべきか。まずは今年末の税制改正論議が注目される。

 国が自動車や燃料などから得る税収は年間9兆円(24年度当初予算)にものぼる。税収に占める割合は7.7%。法人税(23.9%)、所得税(15.2%)には及ばないものの、固定資産税(8.4%)と肩を並べる水準だ。

 日本自動車工業会によると、日本の税負担は車体課税に限っても英国の約1.4倍、ドイツの約3.4倍、フランスの約9.5倍と突出する。燃料課税や高速道路料金、自賠責保険料などを加えると、実質的な負担は「世界一高い」(業界関係者)という。日本自動車連盟(JAF)が昨年実施したアンケートでも、回答者の7割以上が自動車に関する税金を「非常に負担」と答えている。

 日本の場合、戦後のモータリゼーション(自動車の大衆化)に応え、道路網を急いでつくろうと自動車や燃料関係の税金が増えた経緯がある。問題は、道路整備が一巡したにも関わらず、重い税負担が一向に見直されないことだ。社会資本の代表格である道路網の便益は広く国民が享受している。にも関わらず「道路整備によって恩恵を受けるのは自動車ユーザー」という「受益者負担論」がいまだに幅を効かせている。

 自動車業界や経済産業省も手をこまねいているわけではない。国内の新車市場が縮小すると、開発や生産といった「マザー機能」が失われ、自動車産業基盤が崩壊しかねない(日本自動車工業会)という危機感から、政府・与党に見直しを再三、申し入れてきた。しかし、財政当局はもちろん「代替財源はどうするのか」と後ろ向き。国と地方、車体と燃料など、税収と使途をめぐる利害関係が複雑なこともあり、見直しは遅々として進んでいない。

 しかし、カーボンニュートラル社会を目指し、電動車が普及し始めたことで状況は一変した。ハイブリッド化で燃費は目覚ましく向上。電気自動車(EV)に至ってはガソリンを一滴も使わない。仮にEVが100%普及すると、4.2兆円もの燃料税収がゼロになってしまう。

 危機感を募らせる財政当局は「出力課税」「走行距離課税」といった新税構想を水面下で検討。昨年の税制改正大綱にも「自動車関係諸税全体として、国・地方を通じた財源を安定的に確保していく」「中長期的な視点から、車体課税・燃料課税を含め総合的に検討する」との文言を忍ばせ、燃料税収の付け替えに向けて外堀を埋めつつある。これに対し、経産省や自動車業界は「日本の自動車戦略を踏まえる」「多様なパワートレインが併存していくことを踏まえた税制とする」といった文言で抗戦の構えを見せる。

 電動車シフトによる燃料税収の先細りは日本に限らず、世界各国共通の課題で、一部の国では有料道路を増やすなどの動きが出ている。ただ日本の場合、高速道路はもともと有料だ。走行距離課税は改ざん防止など技術的に課題が多い上、移動を自家用車に頼らざるを得ない地方や物流、公共交通機関への配慮など「公平・中立・簡素」とはほど遠く「移動の制約につながりかねない」(関係者)という本質的な問題もはらむ。

 とはいえ、車体課税の見直しと「利用に応じた負担の適正化に向けた課税の枠組み」は「26年度税制改正で結論を得る」と大綱に明記された。中長期的な税体系の姿を探る上でも、まずはこの2項目がどうなるか注目される。