電動車シフトのペースを含め、経営の舵取りが一段と難しくなってきた。電気自動車(EV)需要が一巡する一方、エネルギー高は依然として続く。低価格を武器にした中国勢電動車の勢いも衰えておらず、日本勢が強みとするハイブリッド車(HV)の快走もいつまで続くかは未知数だ。新旧交えた自動車メーカーの〝陣取り合戦〟は今年も激しさを増しそうだ。
HVは日本や欧州、米国で販売を伸ばす。EVが減速している背景には電池コストに起因する車両価格の高さや航続距離に対する消費者の不安、充電時間への不満などがある。この点、HVは価格も手ごろで電欠の心配が少ないエコカーだ。
HVのラインアップを多く持つトヨタは24年4~9月期に電動車の販売比率が44.4%となった。ホンダも同期間に42万1千台のHVを売り、HV比率は30%を超えたとみられる。ホンダは30年にHVの世界販売(中国を除く)を現在の2倍となる130万台に増やす計画を打ち出した。
ただ、EVで先行する中国勢も侮れない。比亜迪(BYD)は熱効率を高めたエンジンを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHV)でも存在感を高め始めた。また、スマートフォンメーカーの小米(シャオミ)など、祖業が異なる手ごわい競合も多い。日本勢は、こうした中国市場の変化を見誤ったことでシェアを落とした。もっとも200以上のブランドがひしめき、赤字覚悟で壮絶な生存競争を繰り広げていることも事実で「今は過当競争で〝我慢の時期だ〟」(自動車メーカー首脳)との指摘も多い。それでも日本メーカー各社は、地場メーカーとも組んで中国市場に適したEVを今年から投入し始め、巻き返しに乗り出す。現地の価格競争に耐え、知能化を含めてニーズの変化にいかに追随していくかが日本勢の課題となりそうだ。
開発や商品投入スピードが桁違いに速い中国勢に対抗していくためには、これまでの常識を捨て去り、思い切った発想や変革も求められる。
昨年末には、日産とホンダの経営統合協議が明らかになった。両社は24年8月、電動化や知能化での競争力強化に向け協業することを発表していた。三部敏宏社長は当時「個社でやると、今のままではトップを走る会社の背中を捉えられない。今(協業に)動かないとなかなか追いつけない」と危機感を露(あら)わにしていた。三菱自動車を交えた3社は、持ち株会社の設立時期や出資比率、人事などを協議し、今年6月の最終合意を目指す。
トヨタ自動車とダイハツ工業、スズキは、EVプラットフォームを共同開発中。スズキは、このプラットフォームを活用したEVを25年夏以降にインドや欧州、日本に投入するほか、トヨタにもOEM(相手先ブランドによる生産)供給する。3社は軽商用EVも共同開発し、25年春ごろに投入するとみられる。
数年前、日本勢は「EVで出遅れた」「HVはガラパゴス」などと環境団体や機関投資家、メディアなどから叩かれた。「敵は炭素であり、エンジンではない」(トヨタの豊田章男会長)という主張も霞みがちだったが、EVシフトに舵を切った欧州勢の苦境など、今となってはどちらが正しかったのかは明白だ。
それでも中長期的なZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)シフトは続く。中国勢が完成度の高いエンジン技術を手中にし、PHVを相次ぎ発売し始めた今、日本のHVも決して安泰とは言えない。これまでの強みを維持しつつ、デジタル技術も駆使した開発や生産リードタイムの大胆な短縮、オープンイノベーションの実効性を高める組織づくりや社員の意識改革など、生き残りに向け、さまざまな変革を迫られそうだ。