ホンダのメキシコ工場は生産車の8割を米国に輸出する
とりわけサプライヤーへの影響が大きい

 トランプ氏が4年ぶりに米大統領に返り咲くことで自動車業界が揺れている。すでにメキシコやカナダに対する追加関税を示唆しており、1月20日の就任式に向け、主要人事も固めた。前回の政権時は中国との貿易摩擦が激化。今回も自国第一主義は変わらず、電気自動車(EV)関連補助金などの政策も見直される可能性がある。米国市場はコロナ禍後、競争が激化している。任期中の向こう4年間、事業環境はさらに混乱することが予想される。

 米大統領選から1カ月足らずの昨年11月下旬、トランプ氏はメキシコとカナダからのすべての輸入品に25%の追加関税を課す意向を示した。両国は米国と実質的な自由貿易協定「USMCA」(米国・メキシコ・カナダ協定)を結んでいる。トランプ氏は移民や麻薬の流入に対する措置としているが、早くもカナダ政府は対抗する姿勢を示している。またトランプ氏は中国に対しても60%の追加関税をかける考えを示しており、貿易摩擦のさらなる激化が危惧される。

 実行に移された場合、USMCAや前身のNAFTA(北米自由貿易協定)を背景に、米国向け製品の輸出拠点を整備してきた自動車メーカーやサプライヤーへの影響は計り知れない。ホンダはメキシコで生産する四輪車の8割を米国に出荷しているといい、カナダにもEV工場を建設している。青山真二副社長は恒久的な関税が導入された場合は対応する必要性を示しつつ、「すぐに移管できるわけではない」と話す。メキシコに完成車工場を有するトヨタ自動車、日産自動車、マツダ、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターにとっても悩みは共通だ。

 より深刻なのがサプライヤーへの影響だ。完成車メーカーとともに周辺国に進出している企業も多く、関税への負担など、供給先との交渉が求められる。労務費の上昇や原材料の高止まりも続いており、事業規模を問わず各社が「変化にどう対応するか構えている」(東海理化の二之夕裕美社長)状況だ。

 環境政策も見直される見通しだ。特にバイデン大統領が進めてきたインフレ抑制法(IRA)によるEVの購入補助金は廃止の公算が大きい。EVは中長期的には一定の市場シェアを占める見通しだが、景気動向と相まって成長のペースは鈍化する恐れもある。トヨタ自動車の宮崎洋一副社長は、「電動車は実需の変化に合わせてプロジェクトの見直しと生産の構えの変更を一層柔軟にし、よりギリギリに投資判断する」と警戒する。

 とりわけ厳しい状況に置かれているのが日本製鉄によるUSスチールの買収計画だ。中国の粗鋼生産量が急増する中、業績が低迷していたUSスチールをグループに迎え入れ、競争力強化につなげたい考えだが、「心理的に受け入れられない」と語るトランプ氏の考えを改めるのは容易ではなさそうだ。

 前回のトランプ政権下で米法人トップを務めていたマツダの毛籠勝弘社長は、「大変難しい環境に置かれた。しっかり事実を認めて情報収集し、対策を考えていく」と話す。交渉好きで「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ氏。通商政策をより自国に有利な形に改めるため、今後もさまざまな揺さぶりをかけるとみられる。現地市場の競争激化により販売奨励金が急増する中、経営環境はさらに難しさを増しそうだ。