EV、デジタルの進展をにらみ経営方針を転換(投資家向けイベントの資料より)
オリバー・ブルーメCEO

 フォルクスワーゲン(VW)グループは、2030年に向けた中長期の事業戦略を公表した。経営の重点を従来の「量」から車両ごとの利益率を重視する「価値」に転換するため、開発体制やグローバル戦略を見直す。開発では、電動化とデジタル化の推進を軸に、傘下14ブランドやデジタル関連子会社などにそれぞれ新たな重要業績評価指標(KPI)を設定し効率化を促す。さらに24年から電気自動車(EV)の新型プラットフォームを導入する一方で、内燃機関(ICE)を順次縮小して電動化対応などで膨らんだ投資を圧縮。22年に8.1%だった売上高利益率を30年に最大11%へ引き上げる計画だ。

 新戦略は21日、ドイツ南西部のサーキット、ホッケンハイムリンクで実施した投資家・アナリスト向けイベントでオリバー・ブルーメCEOらが明らかにした。ブルーメCEOは「われわれは現在、刺激的でありながらも挑戦的な時代を迎えている。自動車産業は前例のない速さで変革し、特に電動化とデジタル化が将来の課題を主導している。当社は競争力を確保・向上させるため、自らの変革をさらに加速させる必要がある」と、経営の重点を量から価値に転換する必要性を強調した。

 開発では傘下14ブランドに新たな4区分のグループを設定。量販車ブランド(VW、シュコダ、セアト/クプラ、VW商用車)を「コア」、高級車・スポーツ車のうちアウディ、ベントレー、ランボルギーニなどを「プログレッシブ」、ポルシェのみは単独で「ラグジュアリースポーツ」、大型商用車(スカニア、MAN、ナビスターなど)は「トラック」に分類。それぞれに売上高営業利益率やEV販売比率などの目標を設定し、収益力を評価する。

 KPIは、車載基幹ソフト(OS)などデジタル関連開発のカリアド、電池セル生産のパワーCoにも設定した。27年度までの年間売上高の成長率目標は平均5~7%に設定した。

 EV用プラットフォームは、24年にも高級車(B~Dセグメント)用「PPE」の新タイプを導入し、ポルシェ「マカン」やアウディ「Q6 e―トロン」に採用する見通し。順次、量販車(A0~Bセグメント)向けプラットフォームの第2世代「MEBプラス」も導入し。EVのアーキテクチャー(プラットフォームやOSなどの開発基盤)を2タイプに絞る。

 さらに、26年以降には、ほとんどの乗用車ブランドをカバー可能なA0~Dセグメント対応の統合プラットフォーム「SSP」を実用化して、EVの収益基盤を整える。26年には、EVの利益率をICE搭載車並みに引き上げることを目指す。

 SSPではカリアドが開発する車載OS「3E2.0」を活用して自動運転「レベル4」(限定条件下での完全自動運転)やSDV(ソフトウエアで定義された車両)への対応を本格化する。

 自動車分野の売上高投資比率は、電動化やデジタル対応によって23年には最大14.5%に高まる見通し。今後は順次、ICE関連の開発を縮小して27年には11%未満、30年には9%以下に削減して、売上高利益率9~11%の達成につなげる。同時に、今後の5年間で実施する1800億ユーロ(約28兆円)の投資内容や、成長戦略で重視する中国、米国市場の取り組みを改めて説明した。

 アルノ・アントリッツCFO兼COOは「新戦略に基づき開発するモデルは、収益力の向上に向けて固定費削減や計画的な投資が行われる。歴史的に、当社はしばしばボリュームの成長を通じて収益性を向上させようとしてきた。この戦略は成功してきたが、自動車産業は電動化とデジタル化への変革が必要になった。そのため、ブランドグループを横断した技術基盤を確立して収益性、持続可能な成長を支える価値創造を目指す」と狙いを示した。