車の先進化で整備業のあり方が変わっていく

 日本の人口は減少に転じているものの、自動車保有台数は2022年3月末で前年比0・1%増の8217万4944台とわずかながら増加している。地方では自動車が生活に欠かせないインフラであることも、保有減の動きを抑制している。ただ、少子高齢化が進み、運転免許の自主返納件数が年間50万~60万件に及ぶなど、中長期には自動車市場が縮小に向かう可能性が高い。加えて、電気自動車(EV)の普及で点検や整備項目が減ることも想定され、整備業界にとって逆風となる要因も多くなる。次代を見据え、今から車検以外のサービスを拡充していくことが必要となっている。

 先進技術への対応も急務だ。20年4月に施行された特定整備は緊急自動ブレーキなど先進運転支援システム(ADAS)の搭載拡大を受け、電子制御装置の適切な整備により、安全を担保していくための制度となる。しかし、24年3月末の経過措置終了まで残り約1年となる中、取得率は認証工場全体の半数以下にとどまっている。未取得の場合は特定整備に該当しない車種しか作業できない。このため、いずれ先細りして廃業の方向に向かう整備事業者が増える懸念がある。

 そもそも整備業界では、整備士の人材不足や事業承継などの慢性的な問題も抱えている。こうした課題に直面した整備事業者が、事業継続を断念するケースも出てくることも想定されている。

 業界を取り巻く状況が厳しさを増す中でも、車の進化や環境変化への対応を前向きに捉え、意識の変化を訴える声も高まっている。日本自動車整備振興会連合会(日整連)の竹林武一会長は「車の自動化や無人化で整備の需要がなくなるわけではなく、むしろ、整備士の必要性が高まる」と指摘する。いかに先進装備でも故障やトラブルの発生はあり得る。しっかりとした知識や技能を身に付けた整備士は、将来も重要視される可能性が高いためだ。日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連)の小倉龍一会長も「車体の構造が著しく変わるが車体整備事業者はもっと勉強し、多くの情報を集めていかないといけない」と呼び掛ける。

 整備事業者を支援する動きも活発だ。日本自動車機械工具協会(機工協)の柳田昌宏会長は「いろいろな機器の開発などでIT化を進めていかなくてはいけない」とし、整備機器のデジタル化で整備工場の技術革新と効率化をサポートしていく考え。全日本自動車部品卸商協同組合(全部協)の森川等理事長も「整備工場が困っていることに対し、解決策を一緒に考え、必要な情報を提供していく」方針だ。

 今年4月以降には、特定条件下でシステムが完全自動運転を行う「レベル4」の公道実証が行われるようになる。「自動運転の技術が進むと整備のあり方も今よりももっと厳しくなっていくのではないか」(機工協・柳田会長)といった見方もあり、EVやコネクテッドカーの本格到来に合わせて整備事業者も新たな対応が求められそうだ。その過程では、整備事業者間の格差が今よりもさらに開く可能性が高い。「やるべきことをやらないと淘汰される」(業界団体代表)という危機感からも、持続的な事業運営を目指して、今から一つひとつ課題に取り組んでいくことが肝要といえる。

 ◆月刊「整備戦略」2023年3月号で特集「創刊50周年記念 整備業 過去・現在・未来」を掲載します。