EV整備に対応する知識や設備が整備事業者に求められる

 今年は日産自動車の「サクラ」と三菱自動車の「eKクロスEV」の軽自動車をはじめ、国内メーカー数社から電気自動車(EV)が発売された。このほか、輸入EVで日本市場に新規参入する海外メーカーもあった。まさに本格的な普及に向けた〝EV元年〟の様相を呈している。一方、EVの普及が進めば、整備や点検においても内燃機関車とは異なる対応が求められる。整備事業者ではEV整備に向け、整備士への講習のほか、適合する設備や工具などの準備を進める動きが目立っている。

 EVを整備する上で、まず重要になるのが、高電圧を取り扱うことへの注意だ。現在、EVに搭載されている駆動用電池は、400㌾前後のものが多い。対地電圧が50㌾以上かつ、直流で750㌾、交流で600㌾以下は法令などで「低圧電気」と定められている。低圧というものの、一般的な内燃機関車に搭載されている電圧12㌾の鉛電池に比べれば、明らかに水準が異なるレベルとなっている。

 このため、低圧電気を取り扱うときは、特別教育(電気自動車の整備の業務等に係る特別教育)を行うことが法令などで定められている。さらに韓国・現代自動車の「アイオニック5」などでは、電圧800㌾の駆動用電池を採用しているモデルもあり、同車両の整備には、「高圧電気」の取り扱い資格が必要となる。こうした特別教育を受講し、適切な知識を持った整備士がいる事業所内で、EVの作業が可能となる。

 グローブやエクステンションバー、メガネレンチ、スパナなど整備に欠かせない工具類は、電気を通さない絶縁ツールが必須となる。また、電気回路の点検に必要なサーキットテスターや絶縁抵抗計のほか、車両側の電子制御装置と通信できるスキャンツール(故障診断器)を用意していく必要がある。さらに、EVは内燃機関車に比べて車両重量がかさむため、各種設備類でも耐荷重性能を考慮しておくことも重要だ。

 実際の整備作業では、従来のガソリン車やディーゼル車にあった原動機(エンジン)、公害発散防止装置などの点検がなくなる。代わりに駆動用電池とモーター、インバーターなどが搭載されるが、これらは基本的にメンテナンスフリーとなる。ただし、EVユニットの冷却システムは、水冷式と空冷式などに分かれている。各メーカーが推奨する方法での点検や、クーラントの定期交換が求められる。

 ただ、全体を見通せば点検項目が減り、作業時間も短くなる。エンジンオイルなどの油脂類、ベルト類、点火プラグなど消耗部品の交換もなくなるため、整備料金の水準が低下することは必至だ。

 整備売り上げの減少が見込まれる事態に、日産東京販売(竹林彰社長、東京都品川区)では「メンテナンスパック(メンテプロパック)」の加入率を高め、車検や点検の入庫台数を増やすことでカバーしていく考えだ。同社全体の整備入庫率は約5割だが、「EVユーザーは入庫率が高く、EVが増えれば8割程度まで伸ばせられる」(営業本部・有松真一サービス部長)とみている。作業単価が低下しても、入庫台数を引き上げることで、サービス全体の収益を確保していく。

 また、メンテプロパックには専用のスキャンツールで駆動用のリチウムイオン電池の状態や使い方を診断する「EV診断」を組み込んでいる。EVユーザーの安心につながる商品特性を訴求し、同商品の加入拡大にも取り組む考え。

 加えて、電動化でさまざまな定期交換部品が減る中でも、補機用の鉛電池やブレーキ液など、交換が必要な補修部品は残る。EVユーザーの中には「タイヤやエアコンフィルターでは、走行性能や車内の快適性の向上を求めるニーズが高い」(同)と見ており、「高付加価値品を選ぶ比率が高まるのでは」(同)と期待をかける。収益性の高い補修部品の提案を強化するなど、あの手この手で、EV整備に対応していく考えだ。

 月刊「整備戦略」2022年12月号で特集「EV整備を商機に」を掲載します。