コンテナのバッテリーで常時事務所に電力を供給している
黒田誉喜代表取締役

 日刊自動車新聞社は4月、今年新設した「第1回整備事業者アワード2022」の受賞事業者19社を発表した。同アワードは、自動車整備を取り巻く環境が著しく変化する中、今後の整備市場活性化に向けて手本となる取り組みに光を当てるのが狙い。受賞各社の取り組み詳細を19回の連載企画でリポートする。

 黒田モーター商会(黒田誉喜代表取締役、三重県四日市市)は、独自のBCP(事業継続計画)で顧客と社員の生活を守る体制を整えている。 契機は、2011年の東日本大震災だった。黒田社長は「震災が起きた際に社員が最も注力するのは、家族を守ること。そこを起点にどうしたら災害時に事業を継続させられるかを考え始めた」と語る。自社のライフラインを確保することで、会社を避難所として社員とその家族の生活を守り、緊急時にも安心して働ける環境を目指す。

 まず、社員とその家族140人の生活に必要な電力と水の自給に着手した。会社近くの自宅での太陽光発電による電力供給に加え、自噴井戸を設置し、有事の際は自宅を拠点に自給できるようにした。

 根底には、行政だけでは地域全世帯の生活を支援しきれないという危機感がある。16年の熊本地震の折、知り合いの整備工場から依頼された最優先救援物資は「水」だった。四日市市においても、人口30万人に対し、給水車は3台しかなく、避難所に確実に物資が届く保証もない。「被災地支援から、翻って自社も水の備えができていないと気付づいた」(黒田社長)のをきっかけに、ライフライン確保に一層注力するようになった。

 こうしたBCP対策は、顧客の安心と安全を守ることにもつながる。「災害が起こった時、『会社に行けば水も電気もあってなんとかなるから、会社に行こう』と社員が出社してくれれば、仕事ができ、顧客対応も続けられる」(同)との考えだ。さらに、自社のホームページや地元コミュニティーFMラジオの自社番組での配信に加え、顧客向けメンバーズ制度の勧誘資料への掲載など、自社のBCP対策を積極的に顧客へアピールすることで、「何かあっても安心な会社」という信頼にもつなげている。

 事業継続における対策も余念がない。19年7月に店舗屋上にも太陽光発電を設置し、敷地内に100㌔㍗のバッテリーおよびコンバーターを置くことで、事業継続に必要な電力を確保。災害時の通信網の遮断に備えて衛星電話を配備し、自動車保険の販売代理店として、災害時にも迅速な手続きを可能にしている。また、ロードサービスには電気自動車(EV)も配備した。燃料供給が停止した際にも、電力が自給できる限り、移動手段に困らない仕組みだ。EVから建物に電気を供給する「ビークルトゥホーム」の機器も設置し、二重三重のバックアップで事業継続の体制を整えている。

 〈受賞者コメント〉

 黒田誉喜代表取締役

 社員と顧客を優先に整えてきた体制を優れたBCP対策として評価していただき、大変光栄に思うと同時に、身の引き締まる思いだ。今後も、社員と顧客を第一に、地域住民の方々にも安心を提供できるよう一層努めていきたい。

(木下 采)