モータリゼーション期に入ったミャンマーに開設したヤンゴン工場のピット
坂井光藏代表取締役社長

 坂井モーター(坂井光藏社長、浜松市東区)は、海外拠点での外国人教育を通じ、海外からの整備士人材の確保と教育のイノベーションに挑戦している。

 同社は現浜松市天竜区横川町に1948年に創業し、地域の自動車整備を担ってきた。坂井社長は創業者の父から会社を引き継ぎ、停滞していた経営を立て直した立役者だ。現在は、国内で浜松市内を中心に車検のコバック5店舗と、同社板金工場、軽自動車専門店の「軽ランド」を運営し、海外ではミャンマーにヤンゴン工場を構える。本業である自動車整備事業を拡大する傍ら、自動車保険や生命保険事業など収益の多角化を進めてきた。

 初の海外拠点であるヤンゴンには、2015年に進出した。二輪車の走行が禁止されているミャンマーの最大都市ヤンゴンは、モータリゼーション期に入っており、今後、自動車市場の拡大が見込める地域だ。同社は、常態化する整備士不足の解消策として、ヤンゴンの日本語学校および整備技術学校と提携することで、日本で整備技術を学びたいミャンマーの若者を積極的に雇用している。ヤンゴン工場は、同社海外拠点として、日本の本社で働くまでの準備期間を過ごし、実践的な日本語と整備技術を学ぶ場としての役割も担う。

 工場で鍛えられた若者は、技能実習生として来日し、即戦力として働いている。第1期生5人は、全員が三級自動車整備士資格を取得した。現在は一時帰国しており、今後、再来日し技能実習3号、特定技能1号を目指していく。第2期生3人もこの春全員が三級の学科試験に合格し、順調に成長しているという。コロナ禍やミャンマーの政情不安もあり、第3期生については外部の人材派遣会社を経由し外国人技能実習生を迎え入れる予定だ。坂井社長は今後のミャンマーからの人材雇用について「今年は難しかったが、やはり現地の自社工場で教育ができるメリットは大きい。情勢が落ち着き次第、再開したい」と語り、海外人材の採用と教育による雇用確保の好循環に自信をのぞかせた。

 同社はこれまでも、保険事業など新規事業に積極的に取り組み、成功させてきた。背景には、坂井社長が一貫し注力してきた人材の多能工(マルチスキル)化がある。社員の成長姿勢を尊び、成長させる土壌を整えてきたからこそ、時代の流れや顧客ニーズの変化にも柔軟に対応し、新規事業展開や事業の成長につなげてきた。今後も、海外人材を含めた社員一人ひとりが技術を高め、「お客さまに一番良いサービスを提供できる」よう、社員の質を高める人材教育に力を注いでいく。

 〈受賞者コメント〉

 坂井光藏代表取締役社長

 海外に拠点を持つのは多くの事業者にとってリスクに感じるかもしれないが、今後の事業発展と人材の教育の観点から有意義な取り組みだと考えている。今回の受賞を光栄に思うと同時に、自動車整備における外国人雇用と教育について考えるきっかけになれば幸いだ。

(木下 采)