「事業の売却にも聖域なく取り組む」と岸田社長(24日)
ニデック製駆動モーターを積んだトヨタ「bZ3X」

 ニデックが、創業者肝煎りの車載部門も視野に入れた不採算事業の見直しを進めている。営業利益率10%以下の事業が再編対象で、この中には欧州のeアクスル事業も含む。M&A(合併・買収)を重ねて成長してきた半面、事業の縮小や売却経験はほとんどない同社。「カリスマ経営からの卒業」(岸田光哉社長兼CEO)は果たせるか。

 「事業の売却にも聖域なく取り組む」―。24日に都内で開いた2025年4~6月期決算説明会。岸田社長は、不採算事業を見直す決意を改めて強調した。

 同社は、今期からの3カ年経営計画で、不採算事業の見直しで年間1千億円規模の変動費と、拠点統廃合などの合理化で500億円規模の固定費を減らす目標を掲げる。この日〝不採算〟の目安として示したのが「営業利益率10%」だ。10%を下回る事業は縮小を進め、5%以下の事業に至っては撤退も示唆した。

 候補の一つが、総売上高の約25%を占める車載事業だ。22年度、23年度と2期連続の営業赤字。前期は黒字転換したものの、営業利益率は4%にとどまった。「精密小型モーター」「家電・商業・産業用」「機械装置」「電子・光学部品」など、他の製品グループの営業利益率が軒並み10%を超える中、収益性の低さが際立つ。

 誤算だったのは、電気自動車(EV)市場の成長鈍化と想定外の価格競争だ。EVシフトで先行する中国と欧州に狙いを定め、開発や生産体制を強化してきたが、中国ではEVの過当競争による値崩れが収益を圧迫。欧州では、18年にグループPSA(現ステランティス)と組んで「ニデックPSAイーモーターズ(NPe)」を仏に設立したものの、EV需要の減速やステランティスの販売不振が響き、収益を上げられずにいる。

 25年4~6月期も、車載事業全体では黒字を確保したものの、NPeは赤字のまま。新製品の投入などで、欧州事業の通期黒字化を果たしたい考えだが、それでも会社として掲げる利益水準にはほど遠いとみられる。

 浮揚のきっかけをつかめない欧州事業。車載事業本部長も務める岸田社長は「(合弁事業も含めて)聖域はない」と強調し、中計の最終27年度までをめどに、撤退も含めた判断を下す意向を示す。6月に着任したステランティスのアントニオ・フィローザCEO(最高経営責任者)とも近く面談し、合弁事業について協議する方針だ。

 車載事業には光明もある。中国では、地場勢との価格競争に晒(さら)される日系メーカーなどが、生き残りに向けて部品の現地調達に舵を切りはじめた。現地生産体制を整えるニデックにとっては追い風だ。

 実際、トヨタが合弁先の広州汽車と組んで3月に発売した「bZ3X」にも、ニデック製の駆動モーターが採用された。岸田社長は「(日系メーカーの調達水準を満たす)トラクションモーターを提供できるのはうちだけ。泥まみれになりながらもつくり続けたからこそだ」と胸を張る。今後は欧州勢などの中国生産車にも売り込み、巻き返しを目指す考えだ。

 ニデックグループを率いてきた創業者・永守重信グローバルグループ代表は「2025年はEV普及の分水嶺になる」「クルマの価格は5分の1になる」などの〝永守節〟を披露してきた。当初の目算は狂ったが、将来的な電動化需要の伸びを待ち構える方針には変わりはない。国・地域ごとにパワートレインの売れ筋が異なる中、車載事業を再成長させるためにも〝選択と集中〟の行方が注目される。

(内田 智)