石油開発投資が急激に減少

 世界的にEV需要が拡大する中、業績を急激に伸ばしているのがEV専業のテスラだ。世界中の主要な自動車メーカー各社が半導体不足による減産で業績が伸び悩む中、21年通期の純利益が前年同期比7.7倍の55億ドル(約6325億円)と、過去最高益となった。期中のEV販売台数は同87%増の94万台と、100万台まであと一歩のレベルに成長している。

 これまで、気候変動対策として二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出量を削減する意識の高まりからEVの普及が加速するとみられていた。しかし、エネルギー価格の上昇によって消費者が経済的な理由からEVを選択するなど、想定を上回るペースでEVの普及が進む可能性がある。12年ごろに米国でガソリン価格が高騰した時は、低燃費のトヨタのハイブリッド車(HV)「プリウス」の販売が急増した。消費者はエネルギー価格が高騰した際、燃費性能を考慮して購入するモデルを選択する。このことは今後のEV普及の追い風となる、なぜなら燃料価格の上昇は今後も避けられないとみられるからだ。

 グローバルで環境・社会・ガバナンスを考慮したESG投資が重視される中、ファンドや金融機関は、化石燃料産業向け投資から撤退するダイベストメントを進めている。この影響で石油産業の上流である石油開発に向けた投資が急激に減少している。過去、産油国が協調減産しても原油価格上昇の足かせとなっていた米国のシェールオイル開発も、資金調達難から掘削リグ数は減少したままだ。シェールオイル開発は脱炭素化に向けた機運の高まりで今後も低調に推移する見込み。さらに、石油開発事業の縮小は今後の燃料価格の上昇圧力になる。

 問題は消費者が、EVではなく、内燃機関を搭載した自動車を選択するのに、どのレベルの燃料価格までなら許容するかだ。石油業界では、水素とCO2を合成した合成燃料なら、ゼロエミッションで既存の燃料供給インフラと内燃機関車をほぼそのまま活用できるとして期待する声もある。しかし、石油連盟の試算によると合成燃料を国内で製造した場合のコストは、現状で1リットル当たり700円程度になるという。クリーン水素とCO2のサプライチェーン構築も含めて合成燃料の普及は期待できない。

 燃料供給インフラに関しても内燃機関車は不利になっている。ガソリン需要の低迷で、国内のサービスステーション(SS、給油所)数の減少は続いている。ピーク時には6万カ所を超えていたSSは現在、2万9千カ所と半分以下に減少し、市町村内にSSが3カ所以下の「SS過疎地」は全国に343市町村もある。これらの地域の住民は、遠方にあるSSで給油するなら、自宅で充電できるEVの方が利便性が高いというケースもあり、内燃機関車にとっては逆風だ。

 カーボンニュートラル社会の実現に向けて、自動車メーカー各社が消費者に受け入れられるように価格を抑えて、航続距離を伸ばしたEVを投入するとともに、各市場で充電インフラの整備も進み、段階的にEVが普及していくことが想定されている。しかし、エネルギー価格の高騰によって想定を上回るペースでEVの需要が拡大する可能性もある。EVを開発・製造する自動車メーカー、充電インフラを整備する事業者、そして脱炭素社会に向けた環境を整備する政府は、EVを巡る急激な変化に柔軟に対応していくことが求められる。

(編集委員 野元政宏)