電動車シフトをにらんだ国内投資が本格化する。トヨタ自動車と日産自動車は完成車工場のある福岡県に、ホンダとマツダも生産拠点周辺に車載電池工場を新設する。スバルは、群馬製作所大泉工場(群馬県太田市)内に電気自動車(EV)専用ラインを設ける。いずれも2027~28年度に稼働し、30年ごろのEV需要に応える。経済産業省も電池産業の国内立地を後押しするが、肝心の電動車シフトのペースは読みにくい。電池や電動車の生産能力をどう生かしていくかが問われそうだ。
トヨタと子会社のトヨタバッテリー(岡田政道社長、静岡県湖西市)は、福岡県苅田町にEV向け電池工場を建設する。生産予定の「パフォーマンス版」次世代電池は、航続可能距離1千㌔㍍を実現し、20分以下の急速充電への対応も目指している。28年の生産開始をにらむ。
同じ福岡県の北九州市若松区には、日産もLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池の新工場を建設する。今年度に着工し、28年度に量産するEVへの搭載を見据える。日産は今年度に発売する次期「リーフ」の生産を追浜工場(神奈川県横須賀市)から栃木工場(栃木県上三川町)へと移管し、栃木にEV生産を集約する動きを見せている。
ホンダは、21年末に完成車生産を終えた狭山工場(埼玉県狭山市)に電池工場を新設する方針だ。20年代後半に稼働予定のカナダの電池工場を念頭に、生産技術の確立を目指す。ジーエス(GS)・ユアサコーポレーションと共同で、滋賀県守山市にも27年をめどに電池工場を建てる。
〝EV工場〟を新設するのがスバルだ。群馬製作所大泉工場(群馬県大泉町)内にEV専用ラインを設ける予定で、27年以降の稼働を計画する。大泉工場に先立ち、矢島工場(群馬県太田市)ではEVの混流生産に向けてラインを改修するため、2ラインのうち1本を25年8月から26年1月まで止める。大泉工場の近隣にはパナソニックエナジー(只信一生社長、大阪府守口市)が電池工場を建設する。
マツダもパナソニックエナジーと協業しており、同社から調達したセル(単電池)と電池モジュールを組み立てる工場を山口県岩国市内に建設し、27年度に稼働させる予定だ。マツダは同年、専用プラットフォームを用いたEVを投入する。
各社が国内投資を活発化させているのは、30年代のEV需要の拡大を見越していることが背景にある。国際エネルギー機関(IEA)は、35年にはEV市場が現在の5倍に拡大し、プラグインハイブリッド車(PHV)と合わせると世界の新車販売の55%超を占めると予測する。35年には米カリフォルニア州などでもガソリン車の新車販売が禁止される見通し。
ただ、足元のEV需要は失速している。欧州では20年から伸びていたEV販売が24年に減少へと転じた。日系各社が主戦場とする米国では、トランプ政権が、30年までに新車販売の5割をEVとするバイデン前大統領の大統領令を撤回。環境規制も緩和する意向を示している。
こうした状況を踏まえ、トヨタは4月に予定していた福岡県と電池工場の立地協定の締結式を延期した。現時点で建設計画自体に変更はないが、市場と規制動向の先読みの難しさは各社共通だ。マツダも3月に公表した「ライトアセット戦略」で、30年時点で販売全体に占めるEV比率の予測を従来の25~40%から25%(40万台規模)へと見直し、電池投資を3800億円程度と、従来計画比で半減させる方針を示した。
経産省は経済安全保障の強化や脱炭素を狙いに、こうした電池産業に補助金を出している。30年までに国産電池の製造能力を150㌐㍗時に増やすことが目標で、今のところ計画は順調だ。
ただ、完成車以上に車載電池は事業リスクが大きい。リードタイムが長く投資がかさむ上、24時間稼働で生産した大量のセルをさばかなければたちまち利益率が悪化する。このためトヨタバッテリーでは、PHV向け電池の生産も検討し始めた。同じ電池とはいえ充放電特性が異なり、電池の「マルチパスウェイ戦略」はそう簡単ではないが、電動車シフトのペースが読みにくい以上、他社でも生産変動の影響を最小化する知恵が求められそうだ。
(中村 俊甫)