危機感を示したパナソニックHDの楠見グループCEO(中央)

 パナソニックホールディングス(HD)が車載電池事業を「量から質」へと転換する。米国で第3工場の新設を先送りし、生産性の向上や収益を重視した供給先の絞り込みも進める。2031年3月期に3兆円強としていた電池事業の売上高目標も白紙になるもようだ。楠見雄規グループCEO(最高経営責任者)は「EV(電気自動車)市場は鈍化はするが成長はしていく。成長シナリオを見直す」と語った。

 同社が4日発表した「グループ経営改革」で明らかにした。同社は、EV市場の拡大に伴う車載電池の需要増加を見込み、主に米国で生産能力の増強に重点投資してきた。しかし、需要が思うように伸びず、商品や投資戦略を見直す自動車メーカーが増加。さらにトランプ大統領がEV普及策を廃止する大統領令に署名し、市場の先行きが一段と不透明になった。このため投資のペースを落とし、収益の確保に舵を切る。

 米国ではネバダ工場(稼働中)、カンザス工場(1~3月期に稼働予定)に続く第3の車載電池工場の新設も検討してきたが先送りする。

 車載用電池事業を手掛けるパナソニックエナジーは、米IRA(インフラ抑制法)による補助金(税額控除)によって収益を確保している。トランプ大統領はIRA補助金の拠出を止める方針だが、楠見グループCEOは「拠出停止はEV購入の補助金で、電池に関する減税措置は継続されるとみている」と語った。仮に減税措置が見直されても「投資のピークは24年度で終わっており、回収はできる」(梅田博和副社長執行役員)という。

 グループ経営改革ではまた、祖業とも言えるテレビ事業の売却を視野に入れるなど、グループで収益力を高めるための構造改革案を公表した。事業会社の「パナソニック」を発展的に解消。白物家電を手掛ける「スマートライフ」(仮称)、空調などの「空質空調・食品流通」(同)、照明などの「エレクトリックワークス」(同)の3社体制に改める。

 車載機器事業のパナソニックオートモーティブシステムズ(PAS)売却にも関わった楠見グループCEOは「意図的に遠心力を働かせたが、(事業会社側に)『ほっておいてくれ』という感じがあり、自主責任という点では改革が進んだが、結果が残せなかった」と振り返った。

 4日は当初、決算説明だけの予定だったが、経営改革案を急きょ追加したという。早期退職を検討する意向も示した楠見グループCEOは「構造改革を早く進める必要がある。社内の閉じた範囲で議論するのではなく、多くを巻き込んで一気に進める」と危機感を訴えた。