創造と破壊もたらすEV時代へ 動力源が電気へと大きな一歩を踏み出す 自動車メーカーはEVシフト鮮明 電池は争奪戦に

  • 自動車メーカー, 自動車部品・素材・サプライヤー
  • 2022年1月1日

 巨大な蒸気自動車や航続距離の短い電気自動車(EV)が未舗装の道に混在していた19世紀末。カール・ベンツ氏とゴットリープ・ダイムラー氏の2人のドイツ人の手で開発されたガソリン自動車は、その利便性の高さから、進化を重ねながら世界中に広まり、現在までモビリティの主役であり続けた。それから約120年。干ばつや洪水などの自然災害の多発、食料問題、海面上昇などの地球環境の危機によって自動車の動力源が電気へと大きな一歩を踏み出した。EVシフトは自動車業界に何をもたらすのか。

EVの販売計画引き上げや投資積み増し相次ぐ

 カーボンニュートラル社会の実現を「錦の御旗」に世界の自動車メーカー各社がEVシフトを鮮明にしている。昨年は、多くの自動車メーカーがEVの販売計画の引き上げや投資のEV関連投資の積み増しの発表が相次いだ。欧州委員会が2035年にハイブリッド車(HV)を含めたガソリン車の販売禁止を打ち出したこともあって、複数の欧州系自動車メーカーが30年前後、内燃機関からの撤退を打ち出し、米国系自動車メーカーも〝脱ガソリン車〟に転換した。パワートレインの全方位戦略を掲げるトヨタ自動車も30年のEV販売見通しを従来予想から150万台増やして350万台とするなど、EVシフトは勢いを増している。

 欧州ではメルセデス・ベンツが30年まで、米国ではゼネラル・モーターズ(GM)が35年までに、ホンダが40年までにゼロエミッション車専業メーカーへの転身を宣言している。

 投資もEV関連に集中する。フォルクスワーゲン(VW)は22~26年の5年間に520億ユーロ(約6兆6千億円)、ステランティスが25年までに300億ユーロ(約3兆8千万円)以上のEVを中心とする大型投資を相次いで表明している。大手自動車メーカーの中でEVに後向きとされてきたトヨタも30年までEV関連に4兆円を投資する計画を公表した。

 国際エネルギー機関(IEA)の「グローバルEVアウトルック2021」によると、30年に世界のEV保有台数が1億4500万台に達すると予測。各国政府がカーボンニュートラルの取り組みを徹底したケースでは2億3千万台に達する可能性があると予測する。

 EV時代に移行するには各国の電源構成や電力需給の状況、充電インフラ、資源も含めたバッテリーの確保など、課題が山積する。それでも「手をこまねいていては市場の変化に取り残される」という危機感が自動車各社をEVシフトに駆り立てる。

サプライヤーは「eアクスル」参入へ

 EVシフトで需要拡大が見込まれるのがモーター、インバーター、減速機を一体化させた「eアクスル」だ。この新しい市場への参入を目指す動きが相次いでいる。ユニバンスや大手電機メーカーの三菱電機などがすでにeアクスルへの本格的な参入を表明した。

 日本精工は、ベアリングの生産などで培ってきた技術を生かし、eアクスル関連部品の開発に着手している。

 eアクスルはEVの航続距離の延伸や性能向上に関係する重要なモジュール部品だ。自動車メーカーが開発するEVの駆動用モーター部品を内製化するのか、eアクスルで調達するのか、一部を内製化して必要な部品だけ調達するのか定まっていない。このため、既存技術を生かして参入できるサプライヤーにとっては新規事業を確立するチャンスにも映る。

 EVは内燃機関車と比べて部品点数が半分から3分の2程度にまで減るとされている。このため、EVが内燃機関車に変わって本格的に普及すると多くのサプライヤーが仕事を失う可能性がある。それだけにeアクスルなどの駆動系の新市場を取り込もうとの動きが広がる。

自動車メーカーによる電池の争奪戦が加速

 EVシフトによって電池業界が大きく動く。中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や韓国のLG化学、サムスンSDI、SKイノベーション、欧州のスタートアップであるノースボルトなどは自動車メーカーとタッグを組み、車載用電池でのシェア拡大が予想されている。かつて高いシェアを持っていたパナソニックは劣勢だ。自動車メーカーのEVシフトにリンクして電池争奪戦が激化する。

 世界最大手のCATLは、世界中の自動車メーカーとパートナーシップを組むとともに、中国、欧州などに電池工場を建設して事業拡大を図る。欧州市場ではフォルクスワーゲン(VW)やBMWが出資するノースボルトの躍進が見込まれている。

 中国のエンビジョンAESCも攻勢を仕掛ける。ルノー、日産自動車の電動車戦略に対応し、EVを生産する予定の両社の工場隣接地にバッテリー工場を新設する。

 韓国勢は米国自動車メーカーとの連携を強化している。LGエナジーソリューション(LG化学の子会社)は、ゼネラル・モーターズ(GM)と合弁会社アルティウム・セルズを設立、SKイノベーションはフォード・モーターと車載電池事業で連携する。

 日本勢ではパナソニックが昨年8月、米国ネバダ州にテスラと共同運営する電池工場「ギガファクトリー」の生産ラインを1本増設し14ラインに拡大した。テスラ向けの新型電池「4680」も開発し、近く量産に入る見通し。

 電池需要の増大を見越して、正極材や負極材、セパレーターといった原材料を製造する化学メーカーが生産能力を増強している。住友金属鉱山は正極材を増産し、旭化成がセパレーターの生産能力の増強を決めている。今後も電池や電池材料関連の投資は活発化しそうだ。

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