ホンダが描く未来の事業領域
日産はスタックしない月面ローバーの試作機を公開

 宇宙の開発に自動車で培った技術を生かそうとする動きが相次いでいる。米テスラのイーロン・マスク氏がスペースXでロケット開発を手がけるほか、トヨタ自動車は燃料電池で走る有人月面探査車、ホンダはロケット、日産自動車は砂地でもスタックしない月面ローバーの開発を目指す。自動車技術を宇宙開発の発展に役立てるとともに、宇宙で得た知見を地球のモビリティの進化にもフィードバックする。

 ホンダは2021年9月、人工衛星を打ち上げる小型ロケット事業に進出すると発表した。30年までに試験機を打ち上げる目標だ。国内の自動車メーカーでロケットの打ち上げを表明したのは同社が初めて。月面で作業できる遠隔操作ロボットや太陽光エネルギーから水素や酸素を取り出す循環システムも開発する。

 「宇宙は夢と可能性の具現化に向けたチャレンジの場だ」。本田技術研究所で宇宙領域を担当する小川厚執行役員は強調する。

 ロケット開発の中心になるのは若手の技術者だ。四輪車市場の成熟化を一因に、研究所を事実上解体したともいわれるホンダだが、研究所の本来の役割でもある「新領域の研究」の中核の一つに宇宙を位置付けた上で、四輪車で培った技術をロケット開発に生かす。

 「最も難しい砂地をクリアできれば他のシーンでも制御の精度が上がる」。日産で先行車両開発部長を務める中島敏行氏はこう話す。

 日産は20年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同でスタックしない月面ローバーの研究を開始し、21年12月に試作機を公開した。四輪制御技術「eフォース」で、積雪路や濡れた路面での安定走行を実現してきた日産だが、常に路面状況が変わる砂地での制御技術は確立できていなかった。同じく月面を覆う砂地でのスタックを避けるための技術を開発していたJAXAとの協業で、宇宙開発に自社の技術を提供するとともに「誰でも砂漠を走れる車の開発につなげたい」(中島氏)という。

 トヨタは20年代後半の打ち上げを目指し、燃料電池で走る月面用の有人与圧ローバーの開発を進める。30年を迎える頃、宇宙と地上の距離がどこまで近づくか、自動車メーカーの技術力にかかっているのかもしれない。