電動垂直離着陸型無操縦者航空機。通称「空飛ぶ車」の実現に向けた動きが活発になっている。日本では、2018年に政府が「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げ、官民を挙げた取り組みを展開中だ。経済産業省と国土交通省は23年の事業開始、30年の本格普及に向けたロードマップを示している。空飛ぶ車は、交通渋滞を避けた都市部での通勤や通学、離島や中山間部での新しい移動手段、そして災害時の緊急物資輸送など、その活用領域は多岐に渡る。世界を見渡すと次世代モビリティのスタートアップ企業のみならず、既存の自動車メーカーや航空機メーカーも巻き込み、グローバルで研究開発が行われている状況だ。空飛ぶ車の“離陸”が社会課題の解決につながると注目されている。
課題は山積するが
空飛ぶ車の特徴は、電動化と完全自律の自動操縦、垂直離着陸できることにある。少人数乗車を想定した機体が大半だが、中にはドローンに複数人が乗れるような大型タイプや、折り畳み式プロペラを搭載して通常時はタイヤで道路を走行できるタイプなど、多様な機体が開発されている。
空飛ぶ車は、身近で手軽な空の移動手段としての実用化が期待されている。一方で、機体開発における技術的課題はもとより、法整備、安全性の確保、社会受容性の醸成など、クリアすべき課題が少なくないのも実情だ。
それでも社会課題の解決につながる新しいモビリティを創出しようと、国も側面支援に乗り出している。機体の安全性や技能証明の基準の制度整備、電動推進や自動飛行の技術開発などが必要になるため、経済産業省と国土交通省は、18年8月から空の移動革命に向けた官民協議会で議論を重ねてきた。同年12月20日には政府と事業者が一丸となって、世界で初めて空飛ぶ車の実現に向けたロードマップを取りまとめている。
ロードマップは、官民が取り組んでいくべき技術開発や制度整備などについてまとめたもの。国は「日本における新しいサービスとして発展させていくためには、『民』の将来構造や技術開発をベースに、『官』が民間の取り組みを適宜支援し、社会に受容されるルールづくりなどを整合的に進めていくことが重要」と指摘。空飛ぶ車の具現化に向け、「事業者による利活用の目標」「制度や体制の整備」「機体や技術の開発」の3領域で今後の工程を示した。
事業者による利活用の目標としては、19年から試験飛行や実証実験などを行い、20年代半ば、特に23年を目標に事業をスタートさせ、30年代から実用化をさらに拡大させる目標を掲げている。事業ベースとしては、まずは物の移動から開始する。地方での人の移動、都市部での人の移動と段階を踏んで実用化を目指す。これらの過程において、安全や騒音、環境への影響など、空飛ぶ車が社会に受容される水準を達成する。
制度や体制の整備については、まず試験飛行の許可や離着陸場所、空域の調整、整備を行う。その上で、運送、使用事業の制度や技能証明、機体の安全性の基準などを整備する。技能証明では、地上からの遠隔操作、機上やシステムによる高度な自動飛行など技術開発に応じた制度を整備し、型式証明でも技術開発に応じた安全性基準、審査方法を構築する。
離着陸場所や空域、電波の調整、整備については、新たなビジネスモデルに応じたヘリポートの確保など、継続的に離着陸できる場所の確保を目指す。同時に、空の交通ルールの検討にも入る。