巨大な蒸気自動車や航続距離の短い電気自動車(EV)が未舗装の道に混在していた19世紀末。カール・ベンツ氏とゴットリープ・ダイムラー氏の2人のドイツ人の手で開発されたガソリン自動車は、その利便性の高さから、進化を重ねながら世界中に広まり、現在までモビリティの主役であり続けた。それから約120年。干ばつや洪水などの自然災害の多発、食料問題、海面上昇などの地球環境の危機によって自動車の動力源が電気へと大きな一歩を踏み出した。EVシフトは自動車業界に何をもたらすのか。

EVの販売計画引き上げや投資積み増し相次ぐ

 カーボンニュートラル社会の実現を「錦の御旗」に世界の自動車メーカー各社がEVシフトを鮮明にしている。昨年は、多くの自動車メーカーがEVの販売計画の引き上げや投資のEV関連投資の積み増しの発表が相次いだ。欧州委員会が2035年にハイブリッド車(HV)を含めたガソリン車の販売禁止を打ち出したこともあって、複数の欧州系自動車メーカーが30年前後、内燃機関からの撤退を打ち出し、米国系自動車メーカーも〝脱ガソリン車〟に転換した。パワートレインの全方位戦略を掲げるトヨタ自動車も30年のEV販売見通しを従来予想から150万台増やして350万台とするなど、EVシフトは勢いを増している。

 欧州ではメルセデス・ベンツが30年まで、米国ではゼネラル・モーターズ(GM)が35年までに、ホンダが40年までにゼロエミッション車専業メーカーへの転身を宣言している。

 投資もEV関連に集中する。フォルクスワーゲン(VW)は22~26年の5年間に520億ユーロ(約6兆6千億円)、ステランティスが25年までに300億ユーロ(約3兆8千万円)以上のEVを中心とする大型投資を相次いで表明している。大手自動車メーカーの中でEVに後向きとされてきたトヨタも30年までEV関連に4兆円を投資する計画を公表した。

 国際エネルギー機関(IEA)の「グローバルEVアウトルック2021」によると、30年に世界のEV保有台数が1億4500万台に達すると予測。各国政府がカーボンニュートラルの取り組みを徹底したケースでは2億3千万台に達する可能性があると予測する。

 EV時代に移行するには各国の電源構成や電力需給の状況、充電インフラ、資源も含めたバッテリーの確保など、課題が山積する。それでも「手をこまねいていては市場の変化に取り残される」という危機感が自動車各社をEVシフトに駆り立てる。