トヨタ自動車もEVラインアップ強化に動く
電動化にはモーターの進化も欠かせない

 グローバルで大きな潮流となっている脱炭素化によって、自動車の電動化ニーズは今年も拡大の勢いが増しそうだ。昨年11月に開かれた「国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)」でも電動車を巡る議論に注目が集まるなど、自動車産業にとって避けては通れない課題になっている。日本政府も経済成長と環境の好循環を目指す「グリーン成長戦略」を改定。2035年に新車販売をすべて電動車とする乗用車の目標に加えて、小型車で40年までに脱炭素車のみとするなどの商用車戦略も定めた。政府はこの実現に向け、新たなイノベーション創出を後押しする方針だ。

 グリーン成長戦略は政府の新たな国際公約である50年に温室効果ガスを実質ゼロ化する目標達成に向け、経済産業省が中心となって関係省庁と連携して取りまとめた。20年末に策定した段階では自動車分野について、大まかな方向性しか示されていなかった。昨年はこれを大幅に刷新。自動車のグリーン化に向けたさまざまな政策課題について、30年以降の工程表(ロードマップ)も示すなど具体化が進んだ。また、政府は30年度までに温室効果ガスの排出量を13年度比46%削減する目標も掲げている。この達成に向けて、30年までの自動車関連の施策も充実させている。

 一連の目標達成の鍵を握るのが、総額2兆円の「グリーンイノベーション基金」を活用した脱炭素技術のブレークスルーへの取り組みだ。同基金は30年をめどに、約10年間かけて大幅な脱炭素化につながる技術革新を支援する長期プロジェクト。自動車の電動化に欠かせない車載用蓄電池と駆動用モーターの研究開発には、最大1510億円を投じる方針を固めている。このうち、蓄電池は同1205億円を配分し、エネルギー密度の高い高効率の蓄電池開発を目指す。モーターは同305億円で調達リスクのある希土類(レアアース)を削減しつつ、小型高性能化に取り組む。

 電動化に向けた技術革新だけでなく、電動車の利用環境の整備にも取り組む。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に欠かせない充電器は30年までに、公共用の急速充電器3万基を含む15万基の充電インフラを整備する計画をグリーン成長戦略に盛り込んだ。ガソリン車並みの利便性を確保することにより、EV導入拡大のネックの一つである使い勝手の悪さを解消する狙い。合わせて、日本勢がリードしている燃料電池車(FCV)についても、発電に必要な水素の充填ステーションを1千基設ける。FCVの使用段階における各種規制も見直す方針だ。

 電動車の普及に向けて、購入補助政策も拡充した。政府は21年度の補正予算で「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」の支援枠を広げた。補助額の上限は従来制度に比べて登録車のEVで2倍の最大80万円、PHVは2・5倍の同50万円に引き上げる。FCVも以前より上乗せした同250万円とした。今春に一部メーカーが発売を予定している軽自動車のEVに関しては最大50万円をサポートする計画で、従来制度と比較して5倍近く増額する。充電インフラの購入とセットにしていた要件も緩和することで、電動車の普及スピードを速める考えだ。

 一方、グリーン成長戦略では電動化以外の脱炭素化も探っていく。二酸化炭素と水素を融合することで、環境負荷を軽減する合成燃料の大規模生産技術の確立も30年までに目指していく。現在の化石燃料と同様の使い勝手が見込まれる合成燃料を安価で大量に生み出せる方策に道筋がつけば、現行の技術水準では難しいとされる大型の商用車のカーボンニュートラルへの回答の一つとなり得る。加えて、自動車産業が長年、技術進化に力を入れてきた内燃機関の生き残りにつながる可能性もある。脱炭素への選択肢を一つに限らないことで、日本の自動車産業が勝ち残れる基盤の構築につなげていく。