FIA世界ラリー選手権(WRC)の日本大会、「ラリージャパン2025」が11月6~9日、愛知県と岐阜県で開催される。実行委員会は機運を盛り上げようと、都内で今月20日まで一般向けイベントを開催している。ラリーは今年で4年目を迎え、恒例になりつつあるが、昨年は有料観戦者数が想定を下回った。地元以外からの興味・関心を広げることで、事業面で安定的に運営できるかが課題だ。日本は現在、FIA世界選手権を4レース開催しているが、F1(フォーミュラワン)日本グランプリを含めて共通の悩みとなっている。
中池袋公園(東京都豊島区)で開かれているラリージャパン2025「体感フェスin池袋」の会場には、トヨタ自動車がWRCを戦う「GRヤリス ラリー1」のほか、スバルやポルシェ、フェラーリなど往年のラリーカーが展示され、通行人がスマートフォンで写真を取ったり、ブースを興味深く眺めたりする様子が見られた。17日にはアニメ「頭文字D」の声優である三木眞一郎さんのトークステージも開かれ、「アニメの聖地」と言われる池袋で、新たなファン層の掘り起こしを狙う。
主催者によると、昨年のラリージャパンには4日間で54万3800人が訪れ、沿道ではおよそ33万8千人が声援を送った。地元では既存の観光資源と組み合わせた「ラリーツーリズム」による地域活性化に期待する。日本家屋や神社、林道を通過するコースはラリージャパンならではで、世界からも注目される。
ただ、収益面では潤沢とは言い難い。昨年は有料観戦者が目標の12万人に対して10万3400人にとどまり、収支面では約5千万円の赤字だったと報じられている。さらに25年大会では自治体の負担金が3億円増えたという。協賛金の減額や円安による海外支払い費用の増額などが理由だ。豊田市は経済波及効果を約156億円と試算するが、安定的な事業運営のためにはチケット収入などを増やし、黒字化することが求められる。
こうした構造は他のカテゴリーにも共通する。日本は現在、WRCのほかに、F1、世界耐久選手権(WEC)、フォーミュラEの4つのレースを開催しているアジア随一の国だ。だがトップカテゴリーのF1でも、中長期を見据えて、特に首都圏のファン拡大に躍起だ。ホンダモビリティランドによるとF1日本グランプリを訪れるファンの推定平均年齢は48歳で、世界平均の37歳を上回る。今年開催した「F1トウキョウファンフェスティバル」は首都圏の若年層や女性ファンの獲得を狙い、レース開催国の料理を提供するなど工夫を凝らした。
ラリージャパンも今年、「体感するラリー」をテーマに、ファン向けの体験型コンテンツを拡充させる。期間中、来場者が競技や世界観を学べるイベント「ラリー大学」を豊田スタジアム(豊田市)周辺で開く。コースも約25%が改められ、豊田市の夜の市街地を走行したり、マシンのスピード感を楽しめる新SS(スペシャルステージ)など、「見せ方」も意識したレイアウトとなる。
昨今、WRCなどは地上波のテレビ番組でも取り上げられる機会が増えつつある。「マニア向け」で終わらせず、広く一般の関心を醸成し、事業面でも持続可能にすることができるか。華やかなレースの舞台裏で、運営団体は模索している。
(中村 俊甫)