車両電動化推進の前提となるバッテリー供給の拡大は、どうすれば実現できるのか。IHSマークイットで自動車技術とサプライチェーンを担当し、電池技術や供給体制を分析、予測するリチャード・セホ・キム氏に聞いた。

(吉田 裕信)

 ―脱炭素の目標に向けた電池開発の現在地は

 「車両電動化の推進には、電動車全般の航続距離を延ばし、コスト競争力を確保することが必要だ。さらに、ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点から、電池製造工程で発生する二酸化炭素(CO2)のコントロールが不可欠となる。バッテリー企業は現在、次に述べる3つの重要な活動によってカーボンニュートラル目標の達成に取り組んでいる」

 「第1に、エネルギー密度を向上させる製品イノベーション。2つ目は製造工程のエネルギー削減を目的とするプロセスの刷新。そして、循環型エコシステムの構築を通じた原材料需給バランスの改善と、炭素排出量の全体的な引き下げだ」

 ―増大する電池需要に応えるための資源確保や、廃棄・リサイクルの現状、今後の見通しは

 「自動車や電池メーカーだけではなく各国政府も産学連携などを積極的に支援し、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の市場成長に欠かせない電池産業のバリューチェーンの確立や、リチウムやコバルト、ニッケルといった原料金属の調達に注力している。また、自動車メーカーの企業レベルでは全固体電池など新技術の開発に投資し、将来の競争力維持に努めている」

 「希少金属は採掘量が限られており価格変動幅が大きい。そのボトルネックの軽減に、循環型エコシステムの構築が役立つと考える。環境保護や鉱物供給の安定化には、リサイクル技術および市場の活性化が重要な意味を持つ」

 ―今後の電池技術革新の道筋は

 「エネルギー密度を高める技術開発と安全性のさらなる強化。この2つの側面から、全固体電池はリチウムイオン電池の代替となることが期待される。技術開発のもう一つの方向性は、寿命を迎えたバッテリーを簡単にリサイクルへ回し、再使用できるようにあらかじめ設計することだ。リサイクルに関連するすべての技術は、その実行を可能にする継続的な進歩が求められる」

 ―どのような電池およびバッテリーシステムが脱炭素を実現させるのか

 「現状において最も有望なのは、同容量ではるかに多くのエネルギーを蓄えられる全固体電池であり、希少金属やCO2排出量の多い材料の使用を減らすことで、環境や安全性問題の解決が見込める。併せて電極技術などコンポーネント単位の改善も進められている」

 ―さらに、LCA全域での脱炭素達成には

 「EVの場合、バッテリー製造と車両生産それぞれの工程、そして走行時の充電と、この3つのセクターがLCAにおけるCO2排出量に最も関係する」

 「これら全域で排出量削減を実現する最も簡単な方法は、使用するエネルギーを再生可能エネルギーへ変換することだが、より現実性のある別の方法として、バッテリーの長寿命化と、先にも述べた希少金属のリサイクル促進が考えられる。鉱山から採掘するよりも大幅に少ない環境負荷でのバッテリー供給が可能となり、需給の安定化にも貢献する」

 ―脱炭素への課題やハードルは

 「まず、製造工程で使用するエネルギー選択を、社会・経済全体のエネルギーミックスに依存しているという現実問題があり、自動車やエネルギー産業など各産業分野の連携が不可欠だ。次に、脱炭素への投資が価格上昇につながる懸念。それから、まだ解決されていない重要な課題の一つに、リサイクル素材に価格面での市場競争力がない点が挙げられる。EV市場が爆発的に拡大すれば、金属調達がボトルネックになることが想定され、循環型エコシステムの構築が脱炭素化の必須条件となるだろう」