次世代モビリティと脱炭素への進捗は、世界の主要国・地域で差はあるのか。自動車および運輸産業をさまざまな視点から洞察する、IHSマークイットのグローバル・トランスポート&モビリティ・プラクティスリーダー、トム・デ・ボリーシャワー氏に聞いた。

(吉田 裕信)

 ―次世代モビリティと輸送・運輸システムのビジョンは

 「ネットゼロとESG(環境・社会・ガバナンス)への期待から中期的には電動化トレンドの急拡大が予想され、これを受けた自動車メーカーはより創造的な車両設計が行えるようになる。電動化はエンジンや変速機、排気のコンポーネントからパッケージングスペースを解放し、車両デザインの自由度を飛躍的に高める。その成果は2030年代半ば以降、大量に具現化されると考える。モビリティとトランスポーテーションのデュアルパーパス車が登場し始め、エキサイティングな時代が到来する可能性がある」

 ―自動車主要国・地域それぞれの次世代モビリティへの進捗は

 「全体として、新たなモビリティへの進捗は地域間である程度の類似性を示しているが、最終的には各地域の文化と規制の違いが展開を左右する。欧州と日本だけを見ても、新たなモビリティの事業モデルのいくつかが、これまで既存のタクシー産業に利益をもたらしてきた保護規制に進展を妨げられている。しかし、結局は消費者需要と将来出現するロボットタクシーが状況を一新させると思われる」

 「一方、米国や中国といった地域はモビリティの進歩を全面的に支持している。公共交通インフラが充実していない米国では、日常生活の移動を個人所有車に依存してきた。つまり、自家用車に代わるモビリティサービスが事実上ないことが、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)などの新たなサービスを生み出し、成長を推し進めた」

 「中国は公共交通機関の利便性も高いのだが、それ以上にモビリティへの需要が強く、新たなサービスを歓迎している。また、インドのような新興国は、モビリティサービスがここ数年間で大幅に発展した半面、個人運転手による移動サービスがあまりに安価のため、システムコストの高いロボットタクシーが有望なソリューションにならないとの見方もある」

 ―今回のパンデミックによる影響は

 「全般的に次世代のモビリティソリューションにいくらかの後退をもたらした。人々が感染リスクを抑えるのに共有型の移動ソリューションを避けたいと思ったことから、次世代モビリティの概念に対する期待値はやや控えめとなっている」

 ―カーボンニュートラル実現へのロードマップは

 「約1年の間に、世界全体が以前とは違う場所になった。パンデミックだけではなく、気候変動、ESG、ネットゼロなどのグリーン問題の出現が景色を変えた。既に20社以上の自動車メーカーが将来の特定日以降は電動車のみを販売する、いわゆるZEVの自主的な義務付けに取り組み、少なくとも10カ国以上が具体的なカーボンニュートラル目標を発表している」

 「これらの動きは自動車産業が今後大きな変化に直面することを明確に示しており、ネットゼロ・コミットメントの難しさゆえに、すべての利害関係者がこの将来計画を今すぐ開始しなければならない」

 ―この先、特に重要となるテーマは

 「乗用車と大型トラック双方がどう持続可能性を確保していくか。電池・材料・インフラなどの課題への対応が、これからの展開の軸になると個人的には考える」