パンデミックによる市況の乱高下や半導体不足など、電動化と脱炭素への道程は序盤から強い嵐が巻き起こった。日刊自動車新聞社と調査・情報分析大手のIHSマークイットは、今後もさまざまな風雨が予想される新時代への航路において、その羅針となる分析や検証、知見交換の機会を提供するセミナー「オートモーティブ・テクノロジー・エグゼクティブ・ブリーフィング(IEB AutoTech)2021」を、9月16日にオンライン形式で実施する。この連載では同セミナーの開催に先立ち、IHSマークイットのアナリストらとともに、情報リテラシーや事業環境把握の基礎となる重要事項を共有していく。脱炭素社会に向けて身に付けておくべき知識や、持つべき視点は―。初回は日本のパワートレイン予測を担当する波多野通(はたの・とおる)アソシエイトダイレクターに、2030年代電動化100%への道筋を聞いた。

(吉田 裕信)

 ―2030年度燃費基準への対応状況は

 「普及価格帯にある乗用車で現状、基準ラインを超えているのは主に2モーター式を搭載するハイブリッド車(HV)。FFベース2モーターHVの約5割が既に先行達成している。つまり高性能の2モーターHVを増やしていかなければ、企業平均として2030年度燃費基準をクリアできないというのが現在の基本的な背景だ」

 「特に厳しい状況にあるのが軽自動車で、メーカーには登録車側の燃費を良くすることで、軽自動車の不足分を補う考え方もあったはずだが、グリーン成長戦略の中に〝100%電動化を目指す〟と明記されたため、何かしらの電動化装置の採用が必要になった。これが最近の大きな動きの一つと言える。当然、12㌾マイルドハイブリッドであれば技術的には難しくないが、問題はそれによるコスト負担を消費者が認めてくれるかどうか。価格が見合わず買ってくれないのなら、利幅を縮めるか、販売台数の減少を受け入れるしかない」

 ―車両高価格化による需要減など、脱炭素に伴う懸念事象を回避する方策は

 「グリーン成長戦略の見直し箇所に、抜本的な税制改正や、脱炭素にインセンティブが働く方向の税体系を検討するといった文言があり、要は脱炭素へのベクトルと、消費者が買い得感や割安感を覚える政策が同じ方向であれば問題の顕在化は抑えられると考える」

 「しかしながら、最新の消費者意識調査などでも、脱炭素のための追加費用負担について、まったく許容できない人と極めて低い予算感覚の人で半数以上を占める結果となり、これは電動化が自ずとは進まないであろう現実を示唆しているとの見方もできる。税制面のほか、補助制度や、有料道路の通行料優遇などの措置が求められる」

 「また、環境性能に加えて、先進安全関係の装備が今後ますます拡大すれば、この部分でもコストが上がる。国や社会、自動車業界にとって最も避けたいのは、そのためにユーザーが代替を見送り、燃費や排ガス性能の良くない車両が走り続けてしまう状況ではないか」

 ―サプライヤーへの影響は

 「2035年までは電動化の手段が問われないので、仮にHV系に軸が置かれるとすれば、構成部品が増えるケースも考えられ、大きな変化は見られないだろう。むしろ、今回テーマの日本国内の電動化とは直接的に関わらないが、欧州などにおける急激な電気自動車シフトの加速がサプライヤーの脅威となる」

 「欧州は日本に比べて環境意識が高く、社会全体で規制が強められている。例えば、エンジン関連の設備は金融機関の投資適合判断で、持続可能性がないと見なされ不適合の部類に入ってしまい、融資を受けられない可能性も出てくる。こういった海外の方針のほうが、日本のサプライヤーにとってもより影響が大きいと思われる」