脱炭素への機運が急速に高まり、その達成に向けて社会全体に対する見方・考え方が一段とシームレス化し、世の中のあり方が今まさに変わろうとしている。IHSマークイットの自動車部門でグローバル二酸化炭素(CO2)コンプライアンスなどを分析するビジャイ・スーブラマニアン・ダイレクターに、CO2マネジメントを掌握するステップを聞いた。(吉田 裕信)

 ―最終的に脱炭素は可能か

 「脱炭素は経済全体の究極の目標であり、交通輸送部門が極めて重要な役割を果たす。今後、ライフスタイルの長期的な変化、規制の厳格化、インセンティブおよび戦略的投資が必要だ。従来は既存技術の改善によるエネルギー利用の高効率化がメーンの推進力だったが、これからは電動化が交通輸送部門の脱炭素において最も有望な手段となる」

 「再生可能なエネルギー資源と供給インフラの整備、そして新たなモビリティ様式への移行は、交通輸送部門の炭素削減の要と言え、脱炭素には地域や分野を超えた包括的な協力が不可欠であることを強調しておきたい」

 ―自動車メーカーのCO2コンプライアンス達成に向けた取り組みは

 「われわれの予測によると、主要メーカーの大半は2025年から30年の間にEUのCO2コンプライアンス要件を満たすことができる。ただ、目標値のさらなる引き上げも考えられるため、一層の電動化投資が求められるだろう。米国では燃費と温室効果ガス(GHG)基準をオバマ政権時代以上に厳しいものへと改訂する動きがあり、主要各社はそれを受けて35年の完全電動化を表明し、カリフォルニアレベルの枠組みと26年モデル以降のより強力なGHG削減軌道を支持する意向を示した」

 「多くの自動車メーカーが、製品やサービスを製造・販売するよりも前の上流過程と、それを使用する段階、つまり下流で排出されるGHGも含めた総合的観点で持続可能性を評価する考え方を取っており、30年代までに大幅なCO2削減を誓約するメーカーとサプライヤーが増えている」

 ―LCA(ライフサイクルアセスメント)やWTW(ウェル・トゥ・ホイール)視点での課題は

 「ネットゼロ達成のために欠かせない評価軸ではあるが、まだそのメカニズムが確立されていない。EUと中国の双方でLCA評価の研究が進められており、企業向けの詳細なガイドラインや会計方法、目標設定を明確にする体系的なフレームワークが効果的だと考える」

 ―一方で(WTWなどの視点ではなく)自動車産業・交通輸送部門が脱炭素に到達するのはいつ頃の見通しか

 「先にも述べたように電動化が脱炭素への重要な道筋となる。EUや中国ではこれまでに大幅な進歩が見られ、25年から35年の間に完全電動車化し、40年から50年の間にカーボンニュートラルになることを約束するメーカーが拡大している。各国の環境規制も30年代半ばまでに内燃機関を段階的に廃止する方向で組まれている」

 「米国とEUでは既に交通輸送部門のCO2排出量の増加傾向に歯止めが掛かっており、中国でも低燃費車や新エネルギー車(NEV)の普及によって減速し始めている。21世紀初頭、中国のCO2排出量は途方もないようにも見えたが、20年から25年にかけて燃料消費量をさらに20%削減し、併せてNEVの基準要件強化を目指している」

 (9月16日に「オートモーティブ・テクノロジー・エグゼクティブ・ブリーフィング(IEB AutoTech)2021」をオンライン形式で開催します)