カーボンニュートラル実現に向けてサプライヤーはどう動き、何をすべきか。IHSマークイットで自動車技術とサプライチェーンの分析や展望を担当するグラハム・エバンズ・ダイレクターに、今回の半導体不足発生の振り返りなどと合わせて聞いた。(吉田 裕信)

 ―今回の半導体不足の発生要因は

 「主に次の3つの要因が挙げられると考える。まず、COVID-19による生産停止回復後の急速な需要の拡大。そして、巣ごもり需要の高まりを受けたゲーム機など家電製品チップ需要の増加。それから、ティア1サプライヤーがチップ製造工程の一部を過剰に(ティア2サプライヤーなどへ)外部委託している構造的な問題だ」

 「金融危機(リーマンショック)後の半導体不足が残した教訓、つまり、在庫水準を高く保ち、設備投資を維持し、自動車メーカーとサプライヤーの緊密な連携によって需給状態を把握する、といった対策も、今回のパンデミックが引き起こした特異な現象の影響を軽減するには不十分だった」

 ―自動車メーカーとサプライチェーンに求められる、さらなる連携強化策は

 「トヨタグループなどを起源とするケイレツ型の関係構築が有効に働く可能性がある。その関係性の特徴の一部とも言える財務面のコミットメントが、生産能力の拡張に必要な設備投資の源泉となる」

 ―脱炭素の実現へサプライヤーとサプライチェーンが果たすべき責務は

 「われわれの分析では2024年には内燃機関の主要部品事業が縮小方向に転じ、この対応に遅れてしまうと難しい局面を迎えることが予想される。一方、採算性のある低炭素技術を確立すれば、そのサプライヤーの存続はほぼ保証されたと同然とも言える。CO2排出に関する規制や監視はより厳しくなり、排出量の削減に対する要望や圧力はますます高まる。サプライヤーはこれまで経験したことのない変化を強いられるだろう」

 「社会は現在、問題を別の場所に移す、または見ないふりをする傾向が強まっており、例えば問題の一つであるバッテリー原材料の確保は、電動化の推進、脱炭素実現のために解決しなければならない重要な課題だ。目標達成に向けて地球のいたる所、社会のあらゆる部分が課題解決に関与することが求められる。中でも自動車サプライチェーンの責任は極めて大きいと考える」

 ―今後の企業経営におけるESG(環境・社会・ガバナンス)と業績や収益の相関は。また、それらをバランスさせるための取り組みは

 「脱炭素化への世界的な加速を背景に、環境に対する意欲と能力を株主や投資家に説明できなければ、事業展開に多大な影響を及ぼすことになる。特に石油大手と自動車メーカーに注目が集まるかもしれないが、自動車サプライチェーンのビジネスでも間違いなく影響は出る」

 「電動車シフトに伴う自動車新技術への消費者需要、規制の変更タイミングなどと歩調を合わせ、この移行期間中に収益性を維持し、成長を遂げていくことは、すべてのサプライヤーにとって困難かつ根本的な課題と言える。社内での低炭素事業の多角化や合理化、さらには事業の売却・買収も視野に、低炭素技術を急速に発展させていく必要がある」