電池メーカーとの関係薄れた日本

 欧米自動車メーカーはEV販売比率を引き上げる計画の裏付けとして、電池を大量調達する道筋を示している。そこで頼りにしているのが電池メーカーだ。自動車メーカーと電池メーカーの関係は、日本でもEVの普及が見込まれた10年以上前に急接近した時期があった。三菱自動車はジーエス(GS)ユアサコーポレーション、三菱商事の3社と07年にリチウムイオン電池を開発・製造する合弁会社「リチウムエナジージャパン」を設立。GSユアサはホンダとも09年にリチウムイオン電池を手がける合弁会社「ブルーエナジー」を設立している。

 日産自動車は08年、初の量産型EV「リーフ」の市場投入に向けてNEC、NECトーキンとリチウムイオン電池を製造する合弁会社「オートモーティブエナジーサプライ」(AESC)を設立した。当時、車載用電池を製造してくれる電池メーカーがなかったことから日産は自社で手がけるしかなかったという。

 その後、EV市場が本格的に立ち上がらなかったこともあって自動車メーカーと電池メーカーの関係は薄れ、リチウムイオン電池から手を引く動きも表面化した。化学メーカーの一部がリチウムイオン電池関連部材から撤退。メガサプライヤーの独ボッシュも18年に内製化を検討していたリチウムイオン電池セルの自社生産から撤退し、全固体電池を開発するGSユアサとの合弁事業を解消した。リチウムイオン電池関連事業は装置産業で、巨額の投資が必要だが、EV市場が期待通りに成長しなかったためだ。

 日産も18年、再生可能エネルギー事業を手がける中国系のエンビジョングループにAESCを売却し、NECとの合弁を解消して電池生産から撤退した。電池事業を売却することで、グループ外からも高性能で低コストのバッテリーを調達するのが目的で、実際、日産が年内に市場投入する予定の世界戦略EV「アリア」にはCATL製のバッテリーを搭載することが決まっている。

 電池メーカーから距離を置いていたはずの自動車メーカーが一転して急接近しているのは、カーボンニュートラル機運の高まりで、想定以上のペースでEVシフトを迫られているからだ。日産は欧州市場でのEVラインアップを拡充するための電池の調達で、売却したエンビジョンAESCに依存する。エンビジョンAESCは日産の英国工場近隣に車載用電池工場の新設を決定。日産が提携するルノーに対してもフランス・ドゥエに建設しているEV生産拠点の隣接地に電池工場の新設を決めた。英国工場が30年には25メガワット時、フランス工場が30年に24メガワット時の生産能力を持つギガファクトリーとなる。

 電池調達の自由度を上げるために電池事業を売却した日産だったが、急激なEVシフトで電池を確保する方が重要となり、想定が狂った。ただ、エンビジョンAESCの株式20%を保有しており、関係を保ってきたことで電池の安定調達先を確保できた。

 EVの性能を大きく左右する電池を安定的に調達できるかが電動化時代の生き残りを左右することから自動車メーカーは電池関連に巨額の投資を決断、電池メーカーとの関係強化に動いている。世界的に車載用電池の調達先は限られる中、電池のコストダウンを含めて、どの電池メーカーと組むかでEVの競争力に影響する。だからといって幅広い自動車メーカーと取引している電池メーカーからの調達に依存すると、需要の集中で安定的に電池を調達できなくなるリスクもある。自動車メーカーは電池関連に引き返すことのできない規模の投資を決断しているが、今後のEV市場の動向を見極めつつ、電池調達のリスクを常に目を光らせ、電動化戦略を柔軟に見直していく必要がある。

(編集委員 野元政宏)