テスラがモデルYを生産するため増強している中国・上海工場

 新型コロナウイルス感染拡大の影響による世界的な新車需要の〝蒸発〟によって自動車メーカー、部品メーカーの経営状況が全体的に悪化している中で、マイナスのインパクトを最小限に抑えているメーカーがある。電気自動車(EV)専門メーカーのテスラと、EV向けモーターに注力している日本電産だ。変動する市場で強さを発揮するキーワードは「EV」と「中国」だ。

 テスラが発表した2020年4~6月期の連結決算の最終利益は1億400万㌦の黒字で、四半期ベースで初となる4期連続の黒字を達成した。前年同期は4億800万㌦の赤字だったが、黒字基調が定着してきた。

 売上高は前年同期比4・9%減の60億3600万㌦だった。テスラも新型コロナウイルス感染拡大に伴う米国でのロックダウンの影響で、生産を一時停止したものの、期中の新車販売台数は同4・7%減の9万891台と、小幅なマイナスにとどまった。中国で生産・販売する量産EV「モデル3」が好調で、グローバルでの同モデルの販売が同3・4%増の8万277台と前年を超えたためだ。

 新型コロナウイルス問題で、今年3月以降、世界中で新車販売台数が大幅に落ち込んでいる。日米欧の自動車各社は生産ラインを一時的に停止するなど、生産調整を実施しており、これが4~6月期以降の業績を直撃する見通し。赤字に転落する自動車メーカーやサプライヤーが相次ぐ可能性がある。

 EV専門のテスラは、世界最大のEV市場である中国で昨年、モデル3の現地生産を開始するなど、中国事業を強化してきたことが奏功し、コロナ禍に苦しむ大手を尻目に、安定成長の軌道に乗りつつある。テスラは現在、中国でSUVのEV「モデルY」を生産するため、上海工場を増設しているほか、ドイツ・ベルリンでもモデル3、モデルYを生産する工場を建設中だ。さらに、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は決算発表の電話会見で、米国テキサス州オースティン郊外にもモデルYや電気ピックアップトラックを生産する新工場を建設する計画を表明、生産能力を大幅に増強する。こうしたテスラの積極姿勢を株式市場は評価、テスラ株価が上昇を続け7月上旬に時価総額がトヨタ自動車を超えて自動車メーカー世界一となった。今後、米国S&P500種株価指数に採用されることが有力視されており、さらに株価が上昇して時価総額が伸びる可能性がある。

 「車載事業では売り上げが半減、月によっては3分の1に減ったのに、それでも赤字にならなかった。これから売り上げが増えれば利益が大きく出てくる」(永守重信日本電産会長)。日本電産の20年4~6月期業績は、自動車メーカーやティア1(一次)部品メーカーの操業停止の影響などもあって減収となったものの、収益構造を抜本的に改革する活動の効果で、営業増益となった。特に車載事業では売り上げが半減しながら黒字を確保できた効果が大きく、今後の成長に自信を深めている。

 その背景となっているのがEV向けトラクションモーターシステム「E―アクスル」で、中国をはじめとする自動車メーカーでの採用が拡大していることだ。直近ではEV専業の広汽新能源汽車の新型EV「アイオンV」や、吉利汽車の「ジオメトリーC」への受注を獲得。すでにグローバルで15社からEV向けモーターを受注している。このうち3分の2が中国系自動車メーカーで、EVシフトを見据えて本腰を入れている効果が表面化している。「(自動車生産)工場は止まっていても電動化の波は止まっていない。EVはどんどん出ており、将来に明るさがある。こんなチャンスはない」(永守会長)と、世界シェア4割確保に向けて受注拡大に注力する。

 新型コロナウイルスの影響で、多くの自動車メーカー、サプライヤーは、需要回復の手応えをつかめず先行きを不安視している。そんな中にあってもテスラと日本電産は、EV需要と、市場成長を見込む中国を中心に攻勢をかけ、コロナ後の自動車業界での足場を着々と固めている。

(編集委員 野元 政宏)