ホンダが日産に近い日立グループと自動車部品事業でタッグを組む理由

CASE対応への遅れに危機感

  • 自動車メーカー, 自動車部品・素材・サプライヤー
  • 2019年10月31日

ホンダと日立製作所は、傘下にあるサプライヤー4社を経営統合することで合意した。ホンダの貝原典也常務執行役員は「自動車業界は自動運転や電動化などで大きく変化しており(今回の経営統合によって)新たな価値を提供できる」と、ホンダのCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)対応に貢献するとの見方を示した。ITの進展によって自動車産業は急速に変化している。ホンダと日立も、傘下のサプライヤーだけでなく、自社の生き残りをかけて再編に踏み切る。

ホンダ系サプライヤーのケーヒン、ショーワ、日信工業の3社と、日立の完全子会社で自動車部品事業を手がける日立オートモティブシステムズが経営統合することで合意したプレスリリース本文の最後に、ホンダが今回の再編に関するこだわりを示す一文がある。

「関連する事業再編について」で、今回の4社経営統合に伴って、日信工業の持分法適用会社で、回生ブレーキ事業を手がけるヴィオニア日信ブレーキシステムジャパン(VNBJ)と中国のヴィオニア日信ブレーキ・システム中山(VNBZ)の合弁パートナーであるヴィオニアから、VNBJとVNBZの株式をホンダと日信工業が共同で取得することで合意したとある。

VNBJは日信工業の四輪車用ブレーキ制御とブレーキ作動システム事業を、オートリブと合弁化した会社。日信工業はオートリブとの合弁化することで、同事業の拡大を狙ったが、ホンダはこれに不快感を示したという。

CASEと呼ばれる自動車業界の変革に伴って、自動車メーカーはデジタル関連を中心とした幅広い分野へスピード感を持って取り組むことを求められており、開発工数が不足している。このため、電動化や自動運転領域などの先端技術では、傘下の部品メーカーに研究開発を依存するケースも増えている。サプライヤー側も、自動車メーカーのこうした要望に応えようとしている。トヨタ自動車系サプライヤーのデンソーやアイシン精機などは、電動化技術や自動運転技術で合弁会社を設立するなど、グループの技術力を結集している。ブレーキ制御技術は自動運転などの要素技術だ。ホンダから見れば日信工業のブレーキ制御事業の合弁化はホンダのCASE対応に逆行するようにも映る。今回の日立グループとの部品事業の再編に伴ってホンダが日信工業のブレーキ制御事業を取り戻すことへのこだわりは、CASEに遅れることに対する危機感を示している。

自動運転や先進運転システム(ADAS)などのキーデバイスであるセンサー類や、半導体、電動車両の電動駆動システムなどは、すでにメガサプライヤーが主導権を握る。しかし、ホンダ系サプライヤーは、ホンダが四輪車最後発で、二輪車から参入したこともあって、トヨタや日産の系列サプライヤーと比べて全体的に規模が小さい。しかも、自動運転や電動車両は、電子化が進み、数多くの半導体を搭載することもあって、部品単体の供給ではなく、システムでの供給を求められるが、規模の小さいサプライヤーがこれらに対応するのは難しくなっている。

ホンダは「QCD(品質・コスト・供給力)と、技術力があれば(系列問わず)どの会社からも調達する」(貝原常務執行役員)と明言するものの、基本的には系列サプライヤーから調達を優先しがちだ。しかし、系列からの調達にこだわっていると先進技術から遅れるとの危機感があるのも事実。実際、ホンダは自動運転などの分野でライバルに遅れていると言われている。

ホンダは系列サプライヤーの中でも中核である3社と、「完成車1台分を製造できる種類の部品を手がけている」と呼ばれる日立グループの自動車部品子会社を経営統合することで「メガサプライヤー」を生み出し、自動運転や電動化などの分野で、競争力の高い技術を迅速に調達することに期待する。同時に、ホンダが今回の再編の決断は、CASEに関連する先進分野では、技術力を持つ系列以外のサプライヤーから積極的に調達することを宣言したようなもので、ホンダ系サプライヤーの緊張感は高まる。

日立側のメリットは何か。日立オートのブリス・コッホCEOは、4社が統合することで「よりよいテクノロジーを提案でき、開発効率も向上し、グローバルで工場を活用できる」と、統合のメリットを挙げる。4社が得意とする領域は重複するところもあるが、経営統合によってスケールメリットに加え、各社の技術を連携することによる技術革新や、高度なシステムを自動車メーカーに供給できる。

それだけではない。「社会インフラをデジタルの力を変革する」ことを目指す日立は今年4月の組織改正で、5つの成長分野の「ライフ」に、日立オートを傘下に置いた。快適な生活空間を実現するためには「移動」が重要なソリューションとなるからだ。これを実現するためには、デジタル化とともに、より多くのデータが必要で「新しい価値を創っていく上で、自動車がデータを発生する重要なソースになる」(日立・小島啓二副社長)。

そしてコネクテッドカーからデータを収集するには、自動車メーカーとの関係強化が欠かせない。しかし、日立が歴史的に関係の深い日産だけでは心もとないのも事実だ。日産の子会社だったカルソニックカンセイ(現・マレリ)は投資ファンドに買収されて独立系サプライヤーとなり、その後、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の自動車部品部門マニエッティ・マレリと経営統合した。系列最大のサプライヤーだったカルソニックカンセイでさえ、グループから離脱した。次世代モビリティサービスへの対応で、日産だけに頼るのはリスクが高い。ホンダ系の有力サプライヤー3社を傘下に入れることで、日立オートの事業拡大に加え、ホンダとの関係も強化して、日立本体のライフ事業と連携できる可能性が広がる。

統合会社は日立が66.6%、ホンダが33.4%出資するが、社名は「日立オートモティブシステムズ」(仮称)とする予定だ。日産をはじめとする納入先に配慮して「ホンダ」を入れない予定で、出資比率についても「広く拡販していくことを見据えた割合にした」(貝原常務執行役員)としており、幅広い自動車メーカーとの取引を目指す。コンチネンタルやボッシュなど、数多くの部品やシステムを取り扱い、自動車メーカーの色が強くないメガサプライヤーとなって生き残りを目指す。

デジタル革命によって先進技術への出遅れは、企業の存続を大きく左右する。特に自動車業界では、ライドシェア・カーシェアの普及に伴う「保有」から「利用」へのシフトや、自動運転分野でグーグルなどのITが先行するなど、競争環境が激変する可能性があり、自動車メーカーや部品メーカーの将来に対する危機感は強い。フォルクスワーゲン(VW)とフォード・モーターが自動運転や電動車の領域で提携するなど、合従連衡も進む。生き残りに向けてCASEに対応するための業界再編は加速しそうだ。

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