日本製鉄は6月18日、米国のUSスチールの買収手続きを完了したと発表した。両社が米政府と国家安全保障協定(NSA)を締結したことを受けてトランプ米大統領が承認した。買収価格141億ドル(約2兆円)の払い込みを完了し、当初の計画通り完全子会社化した。USスチールの社名、ペンシルベニア州ピッツバーグの本社や10万人の雇用は維持する。両社合計したグローバルでの粗鋼生産量は年間8600万トンで、現在の日鉄の世界4位のポジションは変わらない。日鉄は「総合力世界トップの鉄鋼メーカー」を目指すとしている。

日鉄のUSスチール買収は2023年12月に合意したが、全米鉄鋼労組(USW)が反対する姿勢を打ち出し、その後、政治問題にまで発展。前政権が買収を禁止する大統領令を出したことから実現性が危ぶまれていた。トランプ大統領は、日鉄が買収後もUSスチールの雇用を維持し、米国内に巨額投資する方針を示したことなどから最終的に買収を承認した。

これを受けて日鉄は、米国現地法人がUSスチールの発行済みの全普通株式を取得して完全子会社化した。USスチールは米政府に取締役選任など、経営の重要事項に拒否権を持つ黄金株1株を発行する。黄金株によって米政府はUSスチールの独立取締役1人を選任する権利を持つ。加えてUSスチールが生産・雇用を米国外に移転する場合や、米国の既存工場の閉鎖や休止する場合などは米大統領の同意が必要となる。

USスチールは今後、ペンシルベニア州、インディアナ州、アーカンソー州、ミネソタ州、アラバマ州を含むUSスチールの製鉄所で大規模な設備投資を実行して経営再建を図る方針。米国は先進国の中でも、日鉄が得意とする自動車向けなどの高級鋼の最大市場であり、今後の成長が見込まれることからUSスチールの完全子会社化にこだわってきた。

米政府と締結したNSAでは、日鉄は28年までにUSスチールに約110億ドルを投資することや、USスチールの取締役最大9人の過半数を米国籍とし、CEO(最高経営責任者)を含む経営陣の中枢は米国籍とすることを定めている。また、USスチールは米国内の製造拠点で鉄鋼生産能力を維持する。日鉄はUSスチールの米国法に基づく通商措置への妨害や禁止、干渉しないこととする。

日鉄は黄金株の発行と協定の締結により、国家安全保障を守りながら買収後のUSスチールの経営の自由度と採算性を確保できるとしている。

日鉄の橋本英二会長兼CEOは「日鉄によるUSスチールの経営がスタートし、大規模投資、先進技術の導入、両社の経営陣と社員一人ひとりのたゆまぬ努力で世界一の鉄鋼メーカーとしての地位を確かなものとする」とコメント。また、USスチールの会長を兼任する日鉄の森高弘副会長は「(日鉄は)米国の鉄鋼業、労働者、国家安全保障の未来を守るというトランプ大統領のコミットメントと合致しており、USスチールをより強く、より輝かしい未来を築いていける」としている。