Q 「トランプ関税」って言うけど、米国の関税ってどうなっているの?
A 米国では従来から、乗用車と自動車部品の輸入に対して、2.5%の関税を課しています。4月3日に完成車に対して25%の追加関税を発動したため、乗用車の関税は27.5%となりました。ライトトラックはもともと25%の関税が課されていたため、追加関税が上乗せされて50%になりました。
自動車部品の追加関税は5月3日に発動しました。エンジンや変速機、車載電池などの大型部品から、バックミラーやワイパー、シートベルトまで対象部品は広範囲に及ぶ見通しです。一方、トランプ大統領は4月29日、米国内で生産する完成車を対象に輸入部品にかかる関税を一部免除することを決めました。優遇期間は2年なので、中長期的には米国内でのサプライチェーン(供給網)の見直しが求められそうです。
Q なぜ追加関税を発動したの?
A もともとビジネスマンだったトランプ大統領は「ディール(取引)」を重要視しています。また、自ら「タリフマン(関税男)」と称し、高関税を課すことによる国内への製造業回帰を打ち出しています。追加関税は、貿易相手国に対して米国への投資を促すためのディールとの見方が強いです。第1期トランプ政権時も、メキシコに新工場の建設を計画していたトヨタ自動車を名指しで非難し、「高い関税を課す」と脅した過去があります。製造業の国内回帰を打ち出す背景には、かつて民主党の牙城だった自動車などの製造業が集積する「ラストベルト」の支持基盤獲得があるとされています。
また、トランプ大統領は貿易赤字の解消にも強いこだわりがあります。米国の貿易赤字は1970年代から継続して発生しており、2024年は過去最大となる約185兆円に達しました。最も赤字幅が大きいのが中国で、メキシコ、ベトナムと続き、日本は7番目に赤字が大きいです。
Q 米国の関税では、相互関税もあるよね?
A 自動車の追加関税と混同されがちなのが「相互関税」です。貿易相手国と同水準まで関税を引き上げることで米国からの輸出を増やし、貿易赤字の解消につなげる狙いがあります。4月5日に一律10%の関税を適応し、9日には貿易赤字が大きい国に対して異なる関税を上乗せする予定でしたが、こちらは90日間の延期が決まっています。自動車の輸入には高関税が課されているため、相互関税の対象外となります。
Q メキシコやカナダは関税が優遇されていたよね?
A 状況は大きく変わっています。もともと米国・メキシコ・カナダの3カ国の間では、貿易の自由化に重点を置いた「北米自由貿易協定(NAFTA)」を1994年に発効していました。ところが第1期トランプ政権で見直し、新たな関税軽減措置「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」を2020年に発効しました。NAFTAとの大きな違いは、自動車分野で原産地規則(ROO)をより厳格化したことで、米国内への製造業回帰を狙ったものでした。さらに今回の追加関税では、米国産の素材や部品以外には25%の関税がかかります。たとえメキシコやカナダであっても関税の影響を避けることは難しい状況です。
Q 日本への影響は?
A 財務省の貿易統計によると24年の日本から米国への輸出総額は21兆2951億円で、そのうち自動車は6兆264億円と品目別では最も額が大きいです。さらに自動車部品は1兆2310億円となり、自動車と合わせると全体の3分の1を占めることになります。それだけに自動車の追加関税の影響は非常に大きいと言えます。
Q 自動車メーカーはどう対応しているの?
A 自動車メーカーによって米国生産や輸出台数比率はまちまちで、影響度合いは異なります。加えて、トランプ政権の関税政策は「朝礼暮改」であり、リスクを最小化するための〝最適解〟を現時点で導き出すのは困難です。
このため、トヨタは「当面は現在のオペレーションを維持する」として車両価格や部品の仕入れ値などを据え置き、当面は関税影響を自社で吸収する方針を示しています。トヨタの言う「当面の間」はどれくらいの期間を示しているのか分かりませんが、日本貿易振興機構(ジェトロ)の担当者は「関税の影響が表面化するのは6、7月ではないか」と言います。実際、自動車メーカーは追加関税がかかる前の流通在庫を持っており、3月末までに各社とも在庫の積み増しも行いました。そうは言っても在庫には限りがあり、すでにスバルなど一部のメーカーは、値上げの検討を始めているようです。
Q 部品メーカーへの影響も大きいのでは?
A 部品メーカーも関税影響を読み切れずにいます。トヨタ系主要サプライヤーの今期業績見通しでは、ほとんどがトランプ関税影響の算定を見送りました。デンソーの松井靖副社長は「全体を俯瞰(ふかん)し、影響額を見極めたい。パニックに陥らないことだ」と冷静です。
Q 国内生産が減る可能性もある?
A 十分あり得ます。すでに生産体制を見直す動きが出始めており、ホンダは「シビック」を、日産自動車はSUV「ローグ」の一部生産をそれぞれ日本から米国に移す計画です。米国に工場を持たない三菱自動車は、日産の米国工場に資金を投じて、SUVを共同生産することを検討しています。
自動車の追加関税が恒久的になれば、米国販売車の現地生産を進めていく必要に迫られます。とはいえ、複雑に入り組んだサプライチェーンを短期的に見直すのは容易ではありません。いずれにせよリスクを最小化するための舵取りは非常に難しいと言えます。
Q 日本政府の対応は?
A 政府は4月末に「緊急対応パッケージ」を公表し、企業向けに相談窓口の設置や資金繰り支援などを実施しています。合わせて、日米の閣僚級交渉も進めており、日本からは赤沢亮正経済財政・再生相が交渉役として訪米し、現在3回目となる交渉を25日まで行っています。
貿易赤字の削減にこだわるトランプ大統領は、日本での米国車販売が少ないことについて「非関税障壁」が原因だと強く主張しています。これを受けて日本政府では、車の安全性審査に関する基準の見直しを検討しているほか、米国産の日本メーカー車を輸入する〝逆輸入〟という案も浮上しています。ただ、逆輸入は、為替の影響や国内生産の維持といった観点からみると、日本の自動車産業にとってはメリットが少なく、得策とは言い難いのが実情です。