樋田 康崇ディレクター

 国内の交換用タイヤ販売の現場では、デジタル販売、AI(人工知能)活用、働き方改革、さらにはSDVの登場といった多様な変化に直面している。業界全体で人手不足が深刻化しており、少ない人員で日常業務に追われる現場では、現状維持だけでも余裕がない状況だ。タイヤメーカーも需要後退局面に入り収益性向上を目指し高インチ・高付加価値商品中心へのラインアップシフトを進めているが、度重なる価格改定の影響もあり、シェア拡大には新たな販売戦略が求められている。双方にとって最適な解決策は容易に見いだせていないのが現状である。

メーカー・販売店ともに新たな売り方への準備へ

 SDVが浸透すると、タイヤ交換時期や推奨銘柄、近隣の取付販売店などの情報をクルマ自体が提示するようになる。従来の「定期点検時に指摘されるタイヤ交換タイミング」や「販売店で行っていた乗り方・嗜好に合わせたタイヤ提案」などが、クルマからの提案上で完結する世界が現実味を帯びてきた。これにより、指定ディーラーでそのまま交換するユーザーと、提案されたタイヤや価格の妥当性をオンラインで再調査するユーザーが増加すると考えられる。5年後の2030年時点から新車販売におけるSDV比率は急速に拡大すると言われており、35年時点では現在のHV割合と同等である6割程度に達する見込みだ。それまでの間にタイヤメーカー・販売店ともに、SDV時代に対応した新たな売り方への準備が求められる。

 メーカーにとっては、OEM推奨タイヤに自社銘柄を組み込むことが重要な課題である。OE品・純正品は最優先で提案されるため、ソフトウェア開発を含めた包括的な提案でOEシェアを拡大することが、交換用タイヤ市場のシェア拡大にも直結する。オンラインでのタイヤ購買では、客観的かつ信頼性の高い一次情報や口コミの重要性が高まる。メーカーや販売店が収集・発信した独自情報は、AIが参照する際にも提案候補に挙がりやすい。顧客・車両・タイヤ情報、走行距離・摩耗状態・利用満足度・口コミなどのデータを取得・活用し、個々人に合わせたパーソナライズ提案が求められる。しかし、これらのデータはメーカー・販売店双方に散在し、アナログ管理されている情報も多い。データ統合・活用を実現しているメーカーは限定的であり、販売店単位では短期的な価値を生み出しにくいデータ取得への対応も課題となっている。現実的なWin―Winの関係構築が不可欠だ。(別記事「SDVで変わるタイヤビジネス―ソフトウェア・データを活用したマーケットイン型への変革」で言及した「C-M―T構築」に必要)

SDV・オンライン化時代の到来に向けた対策を

 販売店もまた大きな変革を迫られている。SDVやオンライン経由での集客比率が高まるにつれ、自店が推奨店舗として車両やオンラインで提案される状態を作ることが重要となる。まずは自店の在庫情報、リソース、サービス内容、ユーザー評価などをオンラインで公開し、予約システムと連携する必要がある。オンライン集客が主流となれば、従来の商談機能の重要性は低下し、取付作業特化型拠点や物流拠点型など、新たな店舗形態も求められるだろう。地域ごとにフル機能型・作業特化型・物流拠点型など、最適な店舗配置を再考するタイミングと思料する。足元、人手不足がさらに深刻化し、拠点再編や効率化の動きが進む一方で、リスキリングが追いつかず古参スタッフに負担が集中するケースも目立つ。こうした実態に目を向けずして将来展望は語れない。タイヤ交換作業の自動化や管理業務の効率化、評価制度の見直しなど、現場の余力と活力を生み出す改革が急務であり、メーカーからの支援も不可欠となる。

 SDV・オンライン化時代の到来は間近である。現状維持では業界全体の疲弊が進むのみであり、今こそタイヤメーカーと販売店が一体となり、現場効率化と将来対応に向けた協業を加速させるべきタイミングである。

〈プロフィル〉
樋田 康崇(ひだ・やすたか)
デロイト トーマツ コンサルティング Automotive Unitディレクター
自動車産業のセールス&マーケティング領域で、企画から実行までの支援経験多数。ビジネスとITをつなぎ実証から実装までを迅速に推進する点が強み。