ASEANで売れ行きが好調な「エクスフォース」

 三菱自動車が自社製電気自動車(EV)の開発を中止し、プラグインハイブリッド車(PHV)とハイブリッド車(HV)の開発を優先させる。EVはひとまず、台湾の鴻海精密工業グループから調達する。次世代技術で頼りにしてきたルノー・日産自動車との関係が希薄化していることが背景にある。〝トランプ関税〟など事業環境が激変する中、アライアンスや協業を巧みに使い分けながら〝自立経営〟に向けて小さな一歩を踏み出す。

 同社は、SUVとピックアップトラックのEV2車種を2028年までに開発し、主力市場であるASEAN(東南アジア諸国連合)市場などに投入する計画だった。しかし、世界的にEV市場の成長率が鈍化していることから当面の間、EVの自社開発を凍結。ASEAN向けでもHVやPHVの投入を優先する。

 豪州の環境規制に対応するために必要なEVは、鴻海精密工業グループから調達し、26年後半に投入する。アライアンスを組むルノー、日産以外からEVを調達することになる。加藤隆雄社長は「商品が地域に合っており、スペックやコスト面でも最適と判断した」と説明する。

 三菱自がEV市場の減速を踏まえ、矢継ぎ早に対策を打ち出すのは、電動化戦略をルノー・日産に頼れなくなってきているからだ

 ルノーは日産に43%、日産もルノーに15%を相互出資していたが、23年に出資比率を15%ずつにすることで合意。今年3月には相互出資比率の最低限度を10%に引き下げることでも合意した。6月に日産が開く定時株主総会では、ルノーのジャンドミニク・スナール会長を含むルノーの取締役2人が退任する見通し。日産はルノーのEVとソフトウエア開発会社のアンペアへの出資も取り止めた。

 日産はルノー「トゥインゴ」の派生モデルの設計・開発をルノーグループに委託するなど、提携事業は継続するものの、アライアンス事業は縮小傾向にある。

 引き金になっているのが日産の業績不振だ。同社は、25年3月期の最終損益が最大で7500億円の赤字になる見通し。生き残りを賭けて模索したホンダとの経営統合も破談に終わった。苦境の日産を目の当たりにし、三菱自は危機感を強めている。

 日産は昨年11月、財務体質を改善しようと三菱自株の一部を売却し、出資比率を34%から27%に下げた。電動化や知能化を中心とした生き残りに必要な商品や技術をこれまで通りルノー・日産に頼るだけではリスクが高い。〝依存度〟を下げる最初の一歩が鴻海との提携だ。

 ただ、アライアンスの活用も継続する。米国への輸出車にかかる25%の追加関税は、米国に生産拠点を持たない三菱自にとって大きな重荷で、今期は400億円のマイナス影響を見込む。対策の一環として日産の米国工場に資金を投じ、SUVを両社のブランドで生産することを検討する。

 加藤社長は「日産、ルノーがまず第一優先」と断りつつ「アライアンスに適したものがなければ鴻海に限らず、さまざまな企業と協議し、最適なモデルを提供していく」と話す。リコール(回収・無償修理)隠しや燃費不正を乗り越え、パジェロ製造子会社の閉鎖などの構造改革を経て成長路線への回帰を目指す三菱自。それだけに、特に電動化の商品戦略が停滞することは何としても避けたい。アライアンスを基本としつつ、他の選択肢も常に念頭に置き、安定成長へ万全を期す考えだ。

(編集委員・野元 政宏)