158の国・地域、9つの国際機関が参加表明し、最先端の技術や文化を紹介する「大阪・関西万博」が13日に大阪市此花区の人工島・夢洲で開幕した。人工知能(AI)を使って非接触で血糖値を測定する技術の紹介や、日本館の「火星の石」など、展示物は未来を感じさせる。55年前の大阪万博では、現在では当たり前の「携帯電話」が紹介され、注目された。今回の万博ではモビリティそのものの技術の紹介は多くはないものの、未来の交通社会での活用や、実用化のヒントになりそうな先端技術が披露されている。自動車業界関係者に必見の〝万博の歩き方〟を紹介する。
大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」外側の西ゲートゾーンに位置するパソナグループの「パソナネイチャーバース」には、モビリティの持続可能性や、快適性向上につながる技術が紹介されている。アンモナイトの螺旋形状の建築デザインが目を引く、常に入場待ちの行列ができる人気のパビリオンは、iPS心筋シートの技術を活用し、実際に拍動する様子が見られる「iPS心臓」が話題だが、同じゾーンにミネベアミツミが「未来の眠り」を提案している。
2台設置した体験ベッドには小型の振動デバイスを搭載。ベッド筐体を振動させて音を発し、スピーカーレスで眠りを誘う音楽を流す。独自のばね構造と減衰構造による微細な振動で、心地よい目覚めを実現するという。ベッドセンサーシステムは、ミネベアミツミのセンサー事業の技術要素であるひずみゲージを搭載し、非侵襲・非接触で体験者の体重や体動、呼吸数、心拍数などを測定する。病院や介護施設、ホテルなどへの導入を想定しているが、将来的にドライバーレスの完全自動運転車が実現した際には、移動中、睡眠を取りながら快適に移動する技術に生かせる可能性が見込める。
日本特殊陶業は、空中に投影されたキャラクターの映像に〝触った感覚″などをつくり出す「空中感覚装置」を紹介している。無鉛圧電セラミックスを使った超音波発生素子によって実現する。この超音波技術を応用することで、指向性スピーカーで特定の人だけに音を届けることも可能だ。車室空間での音のパーソナライズ化に活用できる可能性もあるという。
豊田合成は、衣服に装着したペロブスカイト太陽電池で発電し、首元の冷却ファンなどを動かす「スマートウェア」を、吉本興業ホールディングスのパビリオンで実証中だ。モビリティなどで移動中の人のセンシングに役立つ可能性がある。
また、会場西端のフューチャーライフゾーンに位置する「未来の都市」では、川崎重工業のオフロードパーソナルモビリティ「コルレオ」が撮影スポットとしても人気だ。ライオンを想起させるフォルムのコルレオは「移動本能」をテーマに、4脚による走破性と安定性に加え、操る楽しさや乗る喜びも感じられる未来のモビリティとして開発した。スイングアーム機構により前脚部と独立して後脚部が上下に動き、水素エンジンと発電機で生み出す電力によって関節部に組み込んだモーターが駆動する。
4脚の先に取り付けてある黒色の蹄(ひづめ)状の部品はゴム素材で、細かい段差を乗り越えられるため、山岳や水場など、従来のモビリティでは難しい地形も走破できる。川崎重工ではコルレオをレジャー用途として想定していたが、来場者からは山岳救助で活用できるのでは、といった提案も聞かれるという。
コルレオの隣には、川崎重工が想定する未来の公共交通システム「アリス・システム」が紹介されている。利用者は箱型の「アリスキャビン」に入るだけで、陸・海・空の各交通手段を自動で乗り継いで、目的地に到着する。「移動時間を要する、どこでもドア」といったコンセプトだ。会場ではキャビンが電車の「アリスレール」に接続する状態で展示されている。アリスレールの動力源にはモーターサイクル用水素エンジンを活用した発電機「オキュボイド」を利用する。
アリス・システムはエンジニアが実現可能性を考慮して設計図も詳細に書き起こして準備した。「システムが実現するのは将来としても、ハードは決して絵空事ではないものを目指した」と担当者は胸を張る。コルレオとアリス・システムは、2050年のモビリティ社会をイメージしたもので、万博後も要素技術を磨き、各部門で研究開発を進める方針だ。
1970年に開催された大阪万博では、当時はまだ普及していなかった携帯電話のほか、動く歩道といった構想段階の技術が紹介され、多くの来場者が未来社会を頭に描いた。これらの技術は研究開発が進み、実用化され、必要とされるものは社会に浸透する。今回の大阪・関西万博で紹介されているさまざまな先端技術も20年後、30年後の交通社会やモビリティに応用されているかもしれない。
(万博取材班)