自動車部品メーカーもトランプ次期大統領の政策を注視する。特に米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しは、米国の労務費高騰を背景にメキシコへ生産シフトを進めてきた部品メーカーの目算が狂う。一方、環境規制の見直しなどは内燃機関部品メーカーの追い風になる可能性もある。部品各社は今後の政策動向と自社への影響の分析を急ぐ。
「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏の影響をとりわけ大きく受ける恐れがあるのが日本製鉄によるUSスチールの買収だ。トランプ氏は選挙戦で買収阻止を繰り返し訴え「心理的に受け入れられず、実現させない」と語った。日鉄側は対中国勢を見据えた競争力強化などを説いているが、買収の行方は一段と不透明になった。
前回のトランプ政権時代は、中国との貿易摩擦が深刻化し、サプライヤー各社も対応に追われた。今回の選挙戦で、トランプ氏は特にメキシコに対し200%もの関税を課す考えを明らかにしている。東海理化の二之夕裕美社長は「変化にどう対応するか構えている。特にメキシコから米国へのモノの出し入れがどうなるか」と心配する。マブチモーターの萩田敬一執行役員も「メキシコから米国への輸出は難しくなるだろう。関税がかかった場合、納入先に負担してもらうことも考えなければならない」と話す。
一方、環境政策の見直しは内燃機関に強みを持つ日本のサプライヤーにとっては追い風となる可能性もある。日本ガイシの小林茂社長は「排ガスやCO2(二酸化炭素)規制は今までのようなペースでは行かず、一時的なセットバック(後退)はあると思う」と見通す。椿本チエインの明坂泰宏上席執行役員は、足元でEV販売が伸び悩んでいることもあり、「EV化の進展のスピードが変わるだろう。遅れる方が当社にはメリットがある」と話す。
米株式市場はトランプ氏による経済政策への期待から上昇しているが、自国優先の保護主義的政策を懸念する声もある。ミネベアミツミの貝沼由久会長CEO(最高経営責任者)は「世界がこれだけ密接にかかわりあっている時代だけに、米国だけの経済浮揚を図るというのでは困る。さらに心配なのは世界情勢がどうなるか。平和と経済の問題でもある」と語った。
いずれにせよ大勢は固まった。来年1月20日の就任式まで、さまざまなリスクを分析し、対応策を練る必要がありそうだ。