共和党のドナルド・トランプ氏が米大統領に返り咲く。トヨタ自動車やホンダをはじめ、多くの自動車各社やサプライヤーにとって巨大な米国市場は収益の柱だ。自動車の環境規制や優遇策、完成車や部品の関税―ミネベアミツミの貝沼由久会長CEO(最高経営責任者)は「とにかくトランプ氏はアンプレディクタブル(予測困難)で、先が見通せないことが一番の課題だ」と指摘する。日本製鉄によるUSスチール買収のハードルも一層高くなる見込みだ。
「かつて見たことのない勝利だ。米国のすべてを直していくつもりだ」―。過半数の選挙人を獲得したトランプ氏はこう宣言した。下馬評では「歴史的な接戦」とされたが、ノースカロライナ州など激戦州で勝利し、選挙戦を有利に進めた。
トランプ氏は石油や天然ガスの生産を拡大し、エネルギー価格の引き下げを目指す方針を掲げている。選挙戦の最中には追加関税についても言及し、輸入品に一律の追加関税を導入するとぶち上げた。特に移民問題を抱えるメキシコには「200%の関税をかける」と豪語し、中国に対しても電気自動車(EV)などへの追加関税を課す姿勢を示している。前回の大統領時代は、北米自動車貿易協定(NAFTA)を保護主義的な性格の強い米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に見直した。トランプ時代、メキシコに駐在していた大同メタル工業の古川智充社長兼COO(最高執行責任者)は「暴風雨に入ったようなものだった」と振り返る。トランプ氏はまた、対日赤字を問題視したこともあり、日本に矛先を向ける可能性もある。
メキシコ生産車の約8割を米国に輸出するホンダ。青山真二副社長は「関税がかかれば事業への影響は非常に大きい」と警戒の色を隠さない。もっとも、米ゼネラル・モーターズやフォード・モーター、日産自動車など各社がメキシコ生産車の多くを米国に送り込んでおり、トランプ氏の主張通りに関税が跳ね上がるかどうかは見通せない。一律関税や最恵国待遇の撤回には法改正なども必要で、輸入品価格が上がるとインフレが再燃するとの懸念もある。
バイデン政権はインフレ抑制法(IRA)で電気自動車(EV)の購入補助金や電池など関連産業への投資を呼び込んだ。これもトランプ氏は「緑の新たな詐欺」と批判し、廃止する構えを見せる。トヨタ自動車やパナソニックエナジーなどは米国に電池工場の建設を進めている。今後の投資判断に影響を及ぼす可能性もある。トヨタの宮崎洋一副社長は「電動車は実需の変化に合わせてプロジェクトの見直しと生産の構えの変更を一層柔軟にし、よりギリギリに投資判断する」と話す。
もっともトランプ氏は〝反EV〟の立場ながら、テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)と親密な関係を築くなど、予測不能な動きを見せる。メキシコへの関税強化も「移民流入に対するブラフ(脅し)」との見方がある。前回の就任期間中は、中国への追加関税によりサプライチェーン(調達網)の複線化や関税負担の協議など、対応に追われた日本の自動車業界。政策の行方がさらに見えにくくなる中、経営判断の難しさが増している。