収益を伴う台数増を目指す

 日産自動車は、ルノーとの資本関係を見直してから初の中期経営計画「The Arc」を公表した。2026年度の世界販売を23年度と比べて100万台積み増して450万台とし、営業利益率6%も狙う。3年間で30車種の新型車も投入する。同社はカルロス・ゴーン時代の拡大路線を修正し「量より質」を重視してきた。軌道修正にめどがついたことから、収益力を伴いつつ、販売台数も重視する戦略に軸足を移す。カギはパートナーとの協業にありそうだ。

 19年度に6712億円の最終赤字を計上した日産は、20年度からの4カ年計画(日産ネクスト)で生産能力や商品ラインアップの削減、インセンティブ(販売奨励金)の抑制などで収益性の改善に努めてきた。この結果、最終23年度の営業利益率は4・8%にまで回復する見通しが立った。

 しかし、競合他社と比べると利益率は依然として低い。「質」の改善は進んだものの、緊縮財政の副作用で販売台数が減った影響でグローバル生産拠点の平均稼働率が68%と低迷しているからだ。

 このため、次期計画では「100万台増」の目標を掲げた。目標達成のための主な施策は新型車の積極投入だ。中国では8車種の新エネルギー車(NEV)を発売。東風汽車との合弁会社で現地開発したモデルを迅速に投入する。米国ではハイブリッド技術「eパワー」搭載車を含む7車種を発売する。欧州、中東、オセアニア、インド、アフリカにも新型車を投入し、30万台の上積みを目指す。

 もっとも新興メーカーを含めたライバルとの競争は厳しく「数を出せば売れる」という環境ではない。在庫が増えれば値引きやフリート(大口)販売に頼らざるを得なくなり、日産ネクストで取り組んできた収益改善策も水の泡だ。

 収益を伴いながら販売台数を増やすため、日産は新型車の投入でパートナーのリソースをフル活用する。投入時期は明言していないが、主力の北米では三菱自動車との協業でプラグインハイブリッド車(PHV)を投入。欧州ではアンペアとの協業で複数の電気自動車(EV)を発売する。既存パートナー以外との提携も進める。26年度までに投入する30車種のうち、15車種はパートナーが開発した車両になる。

 同社はまた、足元のEV市場が不透明なことも背景に、今後3年間は内燃機関搭載車を軸に新商品を投入する。30車種のうち14車種をエンジン車とするほか、eパワー搭載車、PHVもそれぞれ4車種投入する。

 一方で、27年度以降を見据えた次世代車の開発でもコスト抑制に取り組む。車両の一括開発や電池技術の進化に加え、開発段階の初期からサプライヤーと一体となった開発プロセスに移行することで次世代EVのコストを30%削減し、30年度までには内燃機関車とEVのコストを同等にしたい考えだ。

 今回の経営計画では、3年後の目標とともに、30年に目指す指標として営業利益率8%を掲げた。ただ、財務基盤の回復は道半ばで、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)で多額の投資を単独で賄うことは難しい。「架け橋」を意味する「Arc(アーク)」の名が示すように、多くのパートナーと組んで狙い通りの成果を出すことができるか。今後の3年が重要な意味を持つ。

(水鳥 友哉)