記者会見で恒例の握手しての写真撮影に応じなかった両社トップ。「協業を決めたわけではない」と理由を説明する

日産自動車とホンダが電動車や自動運転・先進運転支援システム(ADAS)領域などでの協業を検討することで合意したのは、比亜迪(BYD)やテスラなどの新興自動車メーカーの台頭に大きな危機感を抱いているからだ。日産の内田誠社長は「新興自動車メーカーは革新的な商品とビジネスモデルで参入し、圧倒的な価格競争力とスピードで市場を席巻しようとしている。これまでの常識に縛られたやり方では、到底太刀打ちできない」と述べ、両社が連携することで新たな価値を早期に創出していく決意を示した。

ホンダの三部敏宏社長も「2030年の断面で見て(ホンダは)トップランナーでいたいし、トップグループとして戦うためには(他社との)シナジー効果による価値とスケールメリットが重要」と述べ、日産との協業で競争力を強化する姿勢を示した。

創業90周年の歴史を持ち、ルノーとの資本提携で外資のようなイメージの強い日産と、若いユーザーが多く、国内四輪車最後発のホンダという、社風が大きく異なる2社の協業が実現すれば異色の組み合わせとなる。三部社長は「日産の知能化やeアクスルの技術はホンダと親和性が高い。壁を乗り越えればシナジーを最大化できる」としている。日産の内田社長は「目的が一緒なら、文化の違いを乗り越えられる」と協業に自信を示す。

両社が当面、協業を検討するのは、電気自動車(EV)の駆動用リチウムイオン電池と駆動用モーターシステム「eアクスル」といったコアコンポーネントと車載ソフトウエアプラットフォーム、商品の相互補完の3点。このうち、EVのコアコンポーネントはEVのコストを大きく左右するキーデバイスだ。eアクスルや車載用電池を両社で統合すれば、量産効果や購買力の強化によるコスト低減が見込める。特にホンダは日産が開発中のeアクスルに発電機と増速機を統合し、コストを3割低減できる「5イン1」などに強い興味を持っているもよう。

また、多くの自動車メーカーが次世代車についてソフトウエアが性能を決めるソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)への移行を検討しているが、自動車メーカーはハードウエア中心だったこともあり、ソフトウエア開発力は遅れている。ホンダはSDV開発を強化するため、ソフトウエア領域に強いSCSKと提携している。日産はソフトウエア開発者を4000人に増やす計画で、ソフトウエアの内製を進める。両社がSDVのベースとなるソフトウエアプラットフォームを共通化することでソフトウエア開発のコストダウンや開発期間を大幅に短縮できることが見込まれる。

テスラやBYDなどの新興自動車メーカーは車載半導体の設計や車載ソフトウエアの開発を自ら手がけている。特にBYDなどの中国の自動車メーカーがEVの販売を大幅に伸ばしているのは、ソフトウエアを活用して短い期間で開発した新型車を相次いで投入しているからだ。ソフトウエア開発で中国の新興勢力に遅れている危機感が、ホンダと日産という異色のタッグを実現するかもしれない。

両社が協業の検討を開始したのは今年1月中旬からで、両社のトップ同士が数回議論して、互いに協業の効果が見込めるとの判断から短期間で検討の覚書を締結した。それだけ新興勢力の台頭に両社トップが焦っていたと見られる。

 両社は今後、協業を検討する3分野についてのワーキンググループを複数設けて、具体的な協業内容、シナジーについて検討するが「短期間でできることをやっていきたい」(三部社長)と、時間をかけずに具体化していく方針。内田社長も「過去のやり方では成長につながらない。時間がないことの共通認識は持っており、持続的な成長につながることをやっていきたい」という。

3月15日に都内で開いた協業検討合意の記者会見の終了後、三部社長、内田社長は提携の記者会見で恒例となっている握手しての写真撮影に応じなかった。今回が「協業の検討」であって、実際に協業を決めたわけではないためとしている。協業は短時間に結論を出すとしても「慎重」に検討する現れとも見られる。異色のタッグは実現するのか、数カ月先に判明する見込みだ。

(編集委員 野元政宏)