日産自動車とホンダは3月15日、電動化や知能化に向けた協業の検討を開始する覚書を締結したと発表した。車載用ソフトウエアプラットフォームやeアクスル、電池の共通化などに加えて、商品の相互補完でも協業を検討する。EVやソフトウェアディファインドビークル(SDV)は開発や生産コストがかさむため、互いの技術力を有効活用するとともに、スケールメリットを追求し、海外新興メーカーに出遅れを許す次世代車で反転攻勢をかける。

都内で実施した共同記者会見で発表した。記者会見にはホンダの三部敏宏社長、日産の内田誠社長が登壇した。具体的な協業内容は今後、複数のワーキンググループを立ち上げて検討する。協業を始める時期も現時点では未定だが、「2030年の断面でトップグループと戦うため、両社のシナジーが必要。そのためには今、動かなければならない」(三部社長)と、効果を見極めた上で早期に協業を始めたい考えだ。

日産とホンダが競争相手に位置付けるのは、米テスラや中国・比亜迪(BYD)などの新興メーカー。会見で内田社長は「新興メーカーによる革新的な商品やビジネスモデル、圧倒的な価格競争力、スピードで市場を席捲される」と危機感を募らせた。

特に協業効果を見込むのが、スケールメリットだ。精緻なすり合わせのノウハウが競争力になるエンジン車と比べ、部品点数が少ないEVは量産効果がより重要になる。SDVのためのビークルOSも現在ホンダは単独で開発しているが、「1千万台規模がなければ投資を回収することは難しい」という見方もあり、両社が上手く協業できれば、コストを抑えてクルマの価値を高められる。

一方、企業文化や成り立ちが大きく異なるだけに、両社の提携が円滑に進むかどうかを疑問視する声もある。ただ三部社長は「当然文化は違うが、日産は技術ドリブンの会社。その点、ホンダと共通する部分もある」と日産の印象を説明。その上で「文化の壁を必ず乗り越え、最大の効果が出せると確信している」と協業の実現に向けた意思を示した。

このほか、資本提携の可能性については、三部社長が「先のことは分からないが、現時点で資本の話はしていない」と否定。日産の内田社長は提携先の三菱自動車を巻き込んだ協業について「メリットが生まれれば連携の可能性もある」とした。

国内自動車メーカーの企業連携を巡っては、トヨタ自動車がダイハツ工業や日野自動車、スバル、スズキ、マツダ、いすゞ自動車と資本を含めた提携関係を構築済みだ。EVではダイハツ、スズキと軽EVを開発してきたほか、スバルとも次世代EVの開発を進める。SDVではマツダが「アリーンOS」や電子電気アーキテクチャーをトヨタと共通化する方向で検討中だ。単体でも年1千万台を超えるトヨタのスケールメリットは大きい。

これに対し、日産、ホンダの年間販売台数は約400万台で「全てを自社開発できる訳ではない」(内田社長)。長年のライバルがタッグを組み、新興メーカーの存在感が増す自動車業界でトップポジションを目指す。