モーターを2個にし、システム自体を小型化しながらクラッチ操作に必要なトルクを確保した
Eクラッチの作動イメージ

 ホンダは、クラッチレバーを握らずに変速できる二輪車用手動変速(MT)制御技術「Eクラッチ」を開発した。走行時だけではなく、繊細なクラッチ操作が求められる発進時や停止時のレバー操作をなくすとともに「クラッチレバー+シフトペダル」による通常操作に任意で切り替えられることが特徴だ。2024年に欧州や日本で発売する「CB650R/CBR650R」を皮切りに採用車種を増やし、スポーツ性と利便性の両立を目指す。

 クラッチ操作をなくす技術は幾つかある。代表例が自動変速機(AT)やスクーターに用いられる遠心式無段変速機だが、いずれもスロットルや変速操作の応答性が問われるスポーツバイクには向かない。この点、MT機構をベースとしたデュアルクラッチトランスミッション(DCT)は有力で、ホンダも2009年に二輪業界で初めて実用化した。応答性が良く、任意でシフト操作ができるなど良いことずくめだが、コストの高さが難点だ。

 MTをベースにした「クイックシフター」もある。走行中に限った話だが、MTはもともとスロットルを瞬間的に戻してギアの噛み合いを解くとクラッチ操作をしなくても変速できる。クイックシフターは、エンジンの点火や燃料噴射の時期を制御し、こうした状況を機械的に作り出している。ただ、半クラッチの制御ができないため、発進時や停止時はレバー操作が必要になる。

 ホンダのEクラッチは、MTの〝操る楽しさ〟を維持しながら走行シーンやライダーの気分によって操作の自動化範囲を広げた技術だ。

 システムの中核を担うのが2個のモーターとモーターコントロールユニット(MCU)で構成するアクチュエーター(作動器)だ。電子制御ユニット(ECU)に集約した車速やエンジン回転数、ギアポジション、シフトペダルの荷重などの情報をMCUに伝達し、クラッチを自動制御する。クイックシフターと異なり、クラッチをモーターで細かく制御することで、発進時や停車時もレバー操作の必要がない。

 エンジン側のクラッチレバーシャフトを手動側とモーター制御側、クラッチ側で3分割し、手動操作とモーター制御が独立して作動できるようにしたことも大きな特徴だ。モーター制御中に手動操作が介入した場合、MCUが検知してモーター制御を一時的に停め、通常のMTと同様の操作が可能になる。車速などに応じて1~5秒後にはモーター制御モードに自動復帰する。システム自体のオン/オフや作動状態はインジケーターでライダーに示す。

 ホンダは今後、二輪用DCTをツアラーなどロングツーリング向けモデルを中心に採用を続ける一方、その他のファンタイプのモデルにはEクラッチの採用を増やしていく方針だ。クラッチ操作が不安な初心者はもちろん、往路や目的地で手動操作によるスポーツ走行を楽しみ、帰路は煩わしいクラッチ操作をせずに移動するなど、バイクの魅力を引き出す新たな操作機構として普及を目指す。

(水鳥 友哉)