来年秋、技術を一部取り入れた全天候型タイヤを市販する
企業や大学と共同で新素材を開発し、実現した

 住友ゴム工業は、濡れた路面や低温下で接地面の性能が変わる「アクティブトレッド」技術を開発した。乾いた路面から雨天、雪上まで、1つのタイヤでさまざまな環境に対応できることを目指した。構想から6年をかけ、材料メーカーの協力やシミュレーション技術で実現にめどを付けた。まずは来年秋に発売予定の全天候型タイヤに一部技術を投入する。今後も開発を続け、将来的にはタイヤカテゴリーの集約といった「ゲームチェンジ」につなげたい考えだ。

 タイヤは夏用、冬用の大きく2つが存在し、雪上や雨天など、それぞれ苦手な路面がある。ただ、実際には突然の雨や雪、凍結など、路面の状況は刻々と変わる。そこで状況に合わせてゴムの性能が「アクティブに」変化すれば、路面を問わず安心して走れるのでは―。そんなアイデアが2017年に公表した技術開発構想「スマートタイヤコンセプト」の1つに組み込まれた。

 そこから6年の歳月をかけて技術を開発した。一定時間、水に触れるとゴムの接地面が柔らかくなる「タイプウェット」と、低温環境で柔らかくなる「タイプアイス」の2つの切り口で研究に取り組んだ。

 「タイプウェット」の実現のカギは「可逆性のあるイオン結合」を用いたことだ。通常は結合すると離れないポリマーや添加剤の結合に、水で反応するイオンを使った。これにより濡れた路面では結合が離れ、乾燥すると元に戻る「スイッチ性」を実現した。

 接地面に水を浸透させる「水浸透補助剤」もポイントだ。接地面の厚さ約1㍉㍍のみを変化させることで剛性を維持し、操縦安定性や低燃費性能は損なわれないようにした。こうした「イオン結合性材料」はエネオスマテリアル(平野勇人社長、東京都港区)、クラレ、信越化学工業の3社と開発した専用品だ。

 「タイプアイス」の実現には、「北海道大学の野々山(貴行)准教授との出会いが大きい」(住友ゴム・材料開発本部材料企画部の上坂憲市部長)という。両者は樹脂と軟化剤をブレンドした「特殊イオン性化合物」を開発。これを樹脂と軟化剤のブレンド物に入れると、低温では樹脂と軟化剤が良く混ざり柔らかくなる。他方、高温では分離させて固くする、通常とは真逆の性質変化を実現した。

 全く新たなタイヤを具現化するため、同社はシミュレーション技術をフル活用。スーパーコンピューター「富岳」も使用し、開発精度とスピードを上げた。同社の村岡清繁常務は「達成困難な課題を組み合わせて乗り越えた」と振り返る。晴天から雨天、雪上、凍結路などさまざまな路面状況に1本で対応できるタイヤが実現できる可能性も秘める。

 今後は、晴天時と雨天時のブレーキ性能を同一にすることを目指して開発するほか、数分かかる性能変化の時間短縮を目指す。低温でも固くなりにくいポリマーや凹凸ができるゴムも開発中だ。27年には「レベル2」として、「次世代EV(電気自動車)タイヤ」にも技術を搭載していく。

 同社はタイヤによる路面状態把握技術「センシングコア」も確立しており、将来的には組み合わせて新たな価値を生み出したい考えだ。

(中村 俊甫)